「どうですか、禁煙生活は」


いきなり落ちてきた声に、スマホの画面に向けていた顔を上げる。にんまりとした笑みを浮かべて俺を見下ろしている羽賀ちゃんは「順調ですか?」と言葉を続けながら、隣の空いているスペースに腰を下ろした。


「心配無用なくらいには順調だな」

「おお~!それは何よりです!禁断症状とか出てません?」

「それはないけど、太った」

「あれだ、口がさびしいってやつですね」


既に経験者である羽賀ちゃんが「分かる~」とケラケラ楽しそうに笑う。その様子につられるように笑っていると、さきほどまでの無邪気な笑みとは少し違う、含みのある笑みが向けられた。



「さすがですね、真島さん」

「なにが」

「いやあ~だって、着々と準備し始めてるじゃないですかあ」


菜穂ちゃんと暮らすための。密やかにそう続けられて、少し気恥ずかしくなる。誤魔化すように持っていた缶に口を付けた。



「いろいろ、世話になったな」


流れてきたコーヒーをごくりと一口飲み込んでから、静かにそう言った。

あの後、すぐに離婚への準備に向けて動き出した菜穂に、またもや経験者である羽賀ちゃんがいろいろと助言してくれたらしい。