まだ整理がつかない頭で、妊娠した事を報告した私に彼はひどく眉を寄せた。『騙したのか』と詰められて、もう何もかもを放り出したくなった。

何も言わずにその場を去ろうとした私を彼は咄嗟に引き止めた。そしてただ一言『責任は取る』と言った。その言葉に、思わず笑ってしまった自分が居た。


あんなに焦がれていたものが、まさかこんな形で手に入るだなんて、一体どんな仕打ちだろう。もう考える事すら億劫で、泣かない為に笑っていた。


始まった瞬間から、終わっていたような関係だった。それでも要らないと切り捨てられなかったのは、私のお腹の中に宿ったこの子にとって、きっと必要なものなのだと信じていたからだ。


お腹の膨らみが目立ってくる前に、会社を辞めた。それからはもう、何かから身を隠すように家に引きこもり、小さな命が生まれてくるのをただ待つ日々だった。


思い描いていたような妊娠生活にはならなかった。それでも、子供を授かれた事を泣きながら喜んでくれた自分の母親を見て、きっと私は幸せなんだと強く思った。

そうでも思っていないと、自分を保っていられなかっただけなのかもしれない。それでも、そう思うしかないように、ずっと、言い聞かせていた。












そして半年後の8月17日。

――私は、奇跡を見た。