足元が、クンっと何かに引っ張られる感覚。伸ばしていた手を止めて視線を辿らせると、そこには俺のズボンを掴む、小さな子供が目に入った。
「……」
「……」
無言で視線を交わす時間が数秒流れた。
3歳くらいだろうか。服装的に多分男だとは思うが、俺を見上げる瞳はくりくりとしていてなんとも愛らしい。
そんな事を頭の隅で考えながらも辺りに視線を巡らせてみるけれど、いくら見渡してみてもこの子の親らしき人間は見当たらない。
「…迷子…?」
そんなワードが口からぽろりと零れ落ちた。俺のその言葉に反応したのか、目の前のちいさな口が動く。
「まいご…?ぼく、まいご?」
こてんと首を傾げながら支離滅裂なことを問いかけてくる、その姿に思わず笑ってしまいながらも「お母さんは?」と、わざとらしいほどにゆっくりとした口調でそう聞いた。
「わかんない」
「…」
「おかあさん、どこ?」
「…迷子決定だな」
独り言ちた俺に、その子供は肩から引っ提げている小さな鞄をズイ、と前に出す。たくさんの車が描かれた柄の布で作られたそれはきっと、手作りのものだろう。