飲んでいたバーからどれほど歩いたんだろう。随分と歩いた気もするし、そう遠くなかった気もする。


支えられなければ足を動かせないでいた私は歩いていた、というよりは引きずられていた、というほうがしっくりくるかもしれない。


これ見よがしに暗闇の中を照らす煌びやかな看板は、そういう事をする為にある空間だ。一度も来た事はなかったけれど、此処がどういう場所なのかという事はさすがに分かっていた。


『休んでいく?』と、静かに聞かれたそれに、私は首を縦に振ったんだろうか。よく覚えていない。


ただひとつ分かった事は、きっと休ませてなんてもらえないだろうという事だけ。それが分からないほど察しが悪いわけでもなければ、それほどまでに酩酊《めいてい》しているわけでもなかった。


もう何も分からない、なんて、嘘だ。

きっと、ぜんぶ、分かっていた。分かっていながら、私はその先に足を踏み入れた。全て、ちゃんと、同意の上だった。