小さい時の将来の夢は“お母さんになること”だった。

サッカー選手やそのとき流行りのアイドルの一員になりたいといった、夢らしい夢を語る子が多い中、私の夢は些《いささ》か現実味を帯びていたものだと思う。そしてその夢は大人と呼ばれる年齢になっても、一度もぶれる事はなかった。


愛する人と結婚して、愛する人の子供を持つ事が、私の人生の目標だった。そんな世界にいつかは辿り着けるんだと、そう信じて疑わなかった。



誰にも言えない気持ちが、ずっと、心の中に蔓延《はびこ》っていた。

出産を控えている同僚にも、子育てに奮闘している友人にも、言えなかった。心の奥深いところに潜在している、黒く、醜い部分を吐き出す事ができなくて、いつも苦しみの中を藻掻いているような感覚だった。


どうして、なんで、私だけが。

いつしかそんな負の感情ばかりが渦を巻いて、もう自分では収集がつかなくなっていた。


みんなが当たり前に手にしているものを、私は手に入れられない。どれだけ手を伸ばしても、掠る事すら出来ない。遣る瀬無い現実を生きていくのすら辛かった。


追い詰められている事を素直に吐き出せたのは、医者の前でだけだった。涙ながらに想いの丈を吐露した私に、医者は言った。『よくある事だよ』と。





それがもし本当なら、この世界はどれほど残酷なんだろうと思った。