「っう、あっくん…っ」
「うん」
これでもかというほどにぎゅうっと抱き着いてくる愛おしい存在を負けじと抱き締める。甘えるように頬を擦りつけてくる感覚に胸の奥が擽られた。
さすがにこれ以上の密着はダメだと、身を引こうとした時、やわらかい唇が口の端を掠めて、慌ててその身体をべりっと引き剥がした。
「何してんの」
「だって…っ」
「だって、じゃねえよ」
ぐっと肩を押し退けて、俺の服を掴む菜穂の左手に視線を落とす。
「したいなら、早くそれ外せよ」
静かに落とした俺の言葉に、菜穂はきゅっと唇を噛む。何かを我慢する時に出る癖だ。今も変わらないものが視界に広がって、胸の奥が焦げ付くように熱くなった。
「…早く、戻ってこい」
待ってるから、と続けた自分の声がまるで縋るような響きをしていて、恥ずかしくなった。必死だ。もう、形振りなんて構っていられないくらい、必死だった。
頬を撫でると、菜穂は俺の手に自分の手を重ねる。
涙に濡れたままの声で「うん」と頷いた菜穂が落とした涙が、再び俺の手を濡らした。