胸を突く痛みも、心を抉るような苦しさも、全てが菜穂に再会した、あの日の再現のようだった。

あの時もこうして、逃げるようにその場を立ち去った。そうする事でしか、自分を保っていられないと思った。


早く。早く、前へ。
そう言い聞かせるたびに、自分が擦り減っていく気がした。


振り返らない事を続けていれば、いつか楽になれるんだろうか。そうした先で、辿り着ける場所はあるんだろうか。答えの出ない自問をひたすら繰り返す。


どうしてあいつじゃなきゃダメなのか。あいつの何がそこまで俺の心を繫ぎ止めているのか。何度考えたって分からない。分からないまま、ただ愛していた。愛していた、なんて口先だけだ。とても過去形には出来ないくらい、今でも、ずっと――…。
















『じゃあもし、離れ離れになったとしても…』


記憶の中、制服に身を包んだ彼女はしっかりと繋がれた、ふたつの手を見つめながら言葉を落とす。


『また、私のこと、見つけてね』


捧げられた言葉がまだ、胸の中で生きている。きっとその根は止まることなく、今までもこれからも、俺の中で生き続けていくんだろう。