「おかあさん…?」


愛らしい声にハッとする。いつの間にか目を覚ましたらしい太陽が、俺の腕の中で寝ぼけ眼を擦っていた。


「泣いてるの?」


その言葉に、慌てて立ち上がる。隠すように太陽の顔を胸元に押し付けて、床に座り込んだままの菜穂を見下ろした。

静かに「寝かせてくる」と、そう言った俺に菜穂はまだ止まる気配のない涙を手の甲で拭いながらこくりと頷く。それを見届けてから、部屋を後にした。







「おかあさん、泣いてたの?」


ベッドに寝転んだ太陽が、虚ろな瞳のままそう問いかけてきた。曖昧に笑いながらタオルケットを掛けてやれば、はぐらかすことを許さないとばかりに小ぶりな口が再び動く。


「どうして?どこか、いたいの?」

「…んー…どうだろうな」

「ぼく、なにかできる?」

「そうだなあ…大きくなったらお母さんのこと、守ってやればいいよ」

「明日、ぼく、おおきく、なってる?」


舌足らずな口調に拍車がかかって、いつもよりもゆっくり瞬きが繰り返されている。きっともうすぐ眠りにつくだろう。そう思いながら、その頭を優しく撫でた。


「明日は無理だろうな」

「そう、なの…?」

「ああ。大きくなるには、時間がかかるから」

「じゃあ…」

「うん?」

「ぼくが、おおきく、なるまで、」


意識が途切れそうになっているのを感じながら、頭を撫で続ける。完全に瞼が下りるその寸前、太陽は小さな声で俺に問いかけた。




「だれが、おかあさんを、守ってくれるの?」