機械越しに響く菜穂の声はひどく取り乱していた。聞きたい事は山ほどあったはずなのにそのどれもが声にならず、ただ「菜穂」と、その名前が自分の口から零れ落ちるのを聞いた。



『あっくん、どうしよう…っ、太陽、太陽が…っ』


冷静さを欠いている様子に、ただならぬ事態を察知する。心配そうに見つめてくる羽賀ちゃんの視線から逃れるように、身体を反転させた。



「落ち着けよ、何があった?」

『太陽が、いなくなったの…!』


悲痛な声に乗せられた言葉を噛み砕くのに時間がかかった。「は?」と、乾いた自分の声の後で、涙に濡れた声が響く。


『太陽、なかなか寝なくて、遊びたいっていうから子供部屋で遊ばせてたんだけど、』

「うん」

『私、いつの間にかリビングで、寝ちゃってて…っ気づいたら、どこにも居な、くて…っ』


ひっくひっくとしゃくり上げる音が、鼓膜をひたすら叩いている。嗚咽の隙間で、俺を呼ぶ声がした。




『どうしよう、あっくん…っ』