ほんのり赤らんだ頬に俺の指が触れる、その寸前だった。
その場に流れるものを全て引き裂くような機械音が鳴り響く。まるで見計らったような雑音に、お互いほぼ同時に肩を揺らした。
羽賀ちゃんは心底 驚いたように見張った目を俺のポケットに向ける。機械音がそこから発せられている事は明白だった。
「ごめん」と謝りを入れてから激しく鳴り響くスマホを取り出す。いつの間にマナーモードが切り替わっていたんだという疑問は、画面を見た瞬間に弾け飛んでいた。
画面に映されているのは、知らない番号だった。いや、知らないんじゃない。登録されていない番号、だ。
その11桁の番号は、いやというほどに知っているものだった。
消したって、消えてくれないものばかりだ。何度その事実を突きつけられればいいんだろう。
「…出ないんですか?」
不思議そうな声で問われた。
どうしてこんな時間に、とか。そもそも俺の番号 消してなかったのか、とか。頭の中にいくつも疑問を浮かばせながら、さんざん躊躇《ためら》った指で、通話のボタンを押した。
『っあっくん…!』
耳にそれを当てるや否や、切羽詰まったような声が、近くで響いた。心臓を掻き回すような音だった。