外の世界に足を踏み出すと、身を焼くほどの日差しに照らされた。職業柄 仕方ないとはいえ、この炎天下にスーツで出歩くのは苦行としか言いようがない。クールビズだなんて、言葉だけがひとり歩きしている。これのどこがクールだよ、と思わず悪態吐きたくなる。


溜め息を零しながらシャツのボタンを2つ開けた、その時。




「――あっくん!」


鼓膜を突いたその響きに、肩が揺れた。

声がした方向に顔を向けてしまったのは条件反射のようなものだった。当然、視線を向けた先に頭に浮かんだ人物はいない。小学生くらいだろうか、小さな子供の手を引きながら「危ないでしょう」と叱る母親の姿を見て、ちいさく苦笑した。


小さな子供を呼びつける時のようなその愛称で俺を呼ぶのは、この世界であいつしか居なかった。
きっとこの先も、あいつだけだろう。




『ねぇ、あっくん』


俺を呼ぶ、甘えたような声が好きだった。少し舌足らずな口調も、真っ直ぐに向けられる黒目がちな瞳も、心底愛していた。