凱旋門の次に掛かっているのは摩天楼を背にする金髪碧眼ビジネスエリートの写真だった。その写真を見て唇を引き結ぶ。

(やっぱり勇気を出して新天地に行くべきよね……)

こうなったらキャリアを極めるしかない。それに恋だって新展開があるかもしれない。高学歴も高身長も海外に行けばノープロブレムだし、貧乳だってパリコレのモデルはみんな少年のような胸だし。そもそも日本の男の巨乳信仰がおかしいのだ。


その時、廊下の遠くにある目的のドアから誰かが出てくるが見えた。
同じ繊維カンパニーの別部門、ブランドビジネス部の女性だ。私より一つ年下で、噂ではどこかの社長令嬢だそうだけど、なぜか本人はどの会社なのか絶対に言わないらしい。

彼女は高級ブランドを担当しているというだけでやたらと上から目線なので、女子社員の間での評判はあまり良くない。でもそれより私が気になるのは、いつも彼女が大きな胸を強調する服ばかり着ていることだ。

その彼女が見るからに不機嫌そうな顔で歩いてくる。どうやら不本意な異動を言い渡されたらしい。

「お疲れ様です」

私が会釈をすると彼女はツンと顔を逸らし、無言ですれ違った。
ちょっと失礼だけど、まあそんなことは今どうでもいい。いざ面談室の前に立ち、迷いを振り切るように大きく深呼吸してノックした。

「繊維カンパニー、ファッションビジネス部一課、仁科紺子です」

「どうぞ」

中から男性の声の短い応答が聞こえ、背筋を伸ばしてドアを開ける。

(……げぇ)

正面に座る人物を見た瞬間、反射的にドアを閉めそうになった。
まさに〝社内中の女子が狙う一番人気〟の男がいたのだ。