『ーー勝負あり!』

その掛け声でハッと我に返った。
会場が不気味なくらい静まり返っている。

僕は寝転がっていてソレイユが馬乗りになって僕の喉元に剣を突き立てていた。
あと数センチで剣が喉に突き刺さって死ぬところだ。
状況からすると僕の負けみたいだ。

……負けたの、か……

意識が完全に無くなるのは初めだったが、そんな状態でも天才には敵わなかったようだ。

って……

「ソレイユ! 腕が!」

「今更かよ。お前が切り落としたんだろ……」

ソレイユの右腕は肘から先がザックリ無くなっていて血が止めどなく溢れ出ている。

「う、うそ……ごめ……僕、意識が……」

言い訳まがいの言葉を言おうとするとソレイユが片手で僕の腰から鞘を取り、器用に落ちてた魔剣を鞘に納めた。
僕も上半身を起こしその様子を目で追った。

「お前は覚えてないようだから教えてやっけど、お前はオレを殺しに来た。本気で。腕だけで済んだのが不幸中の幸いだ」

「え……」

ふと頭を過ったのがこの間の夢。

も、もしかして……あの夢は今日の事を暗示してた……?

「殺意むき出しでいつもよりも倍強くてビビった。でもな、オレの努力には流石の魔剣様も敵わなかったみてぇだな」

ニィッと悪ガキのような笑みを見せるソレイユは左の手のひらを突き出してきた。
手は真っ赤に染まりたくさんのマメやらタコが出来ていて痛々しい。

僕も自分の両手を見てみるがさっきまで剣を握ってたから赤くはなってるもののソレイユみたいな傷はそんなにない。あるとしても数個のマメ。

努力……か。僕も頑張った気でいたけど、ソレイユはそれ以上にやってたんだ……

「つまりオレが言いたいのは……こんな剣に頼んねぇで自分で努力して強くなれよ! てこと!」

高々とそう言い鞘ごと魔剣を地面に叩きつけて真っ二つに折った。

……ソレイユ……

「お前の夢を奪ったのは悪いと思ってる。でも、オレも腕を奪われた。フィフティフィフティだろ?」

そう言うソレイユの目は冷たさがなく、いつもの暖かい目。

「オレ馬鹿だからさ、お前とその剣を引き離す方法がこんなやり方しか思いつかなかった。悪かったな」

「僕の事……嫌いじゃなかったの……?」

「嫌いなわけねぇだろ。嘘でも嫌いって言って後悔したくらいオレはお前が大好きだ」

ソレイユは僕の前にしゃがむと太陽も霞んでしまうほどの笑みを見せ、僕の頭に手を置いた。
嫌われてなかった安心からか涙腺が緩み人前にも関わらずソレイユの首元に抱きつき涙を流した。
捻った蛇口のように涙が止まらない。

「ごめん! ソレイユごめんなさい……! 腕切ってごめんなさい……! ソレイユの気持ち何も考えてなくてごめんなさい……! 自分勝手でごめんなさい……!」

「そんな謝んなよ。オレの方こそごめん」

ソレイユは悪くない……悪いのはこんな剣に頼った僕。自分に甘い僕だから。

そう伝えたいのに上手く言葉が出ないため、代わりに必死に首を横に振る。

『ーー次の試合に移りたいのでそろそろよろしいでしょうか』

淡々と審判が告げソレイユは上の方を見て僕の頭を何度か軽く撫でた。

「だってよ。行くか」

「ん……!」

退場する時、今まで静まっていた会場が暖かい拍手に包み込まれた。