クラージュの様子がおかしい。
ソレイユはすぐにそれに気がついた。

魔剣を使うクラージュに対等な試合ができていると思う。その証拠に会場の盛り上がりが最高潮に達している。
いつもの試験でもクラージュは魔剣を使っている。でも、何かがおかしい。

(オレを本気で殺しに来てる……完全に正気を失ってるな……)

クラージュは休むことなくひたすら攻撃し続けている。
ソレイユの攻撃もしっかり当たってダメージを追わせてるはずなのにクラージュの攻撃は一向に終わりそうにない。

(それに、一番不気味なのは……)

「あはっ。あはは」

(こいつ……殺し合いを楽しんでやがる……)

歓声が大きくてよく聞こえないが確かにクラージュは笑っている。
目は獲物を見つけた獣のように爛々とさせ、口元を限界まで釣り上げている。

「クラージュ……! 落ち着け……!」

上手く避けながら訴えるがまるで言葉が伝わっていないようだ。
今ソレイユが相手にしているのはクラージュではない。
クラージュの見た目をした悪魔だ。

(どうすれば止められる……あの剣さえ離させることが出来れば……っ)

「っ……!?」

焦りのせいで気が散っていたようだ。
スパンっと風の斬る音がしたかと思ったらボタッとソレイユの右腕が地面に落ちた。

「うっ……腕、が……」

それには盛り上がっていた観客も静まり返り悲鳴すらも聞こえてくる。
それでもクラージュの表情は変わらない。
ケタケタと笑いながら剣を引きずって向かってくる。

(考えろ考えろ……! こいつにどうすれば勝てる……! こいつに……!)

「ーーごめ……ん……ね」

ソレイユが悩んでいるとクラージュの声が聞こえた気がした。
でも、クラージュは相変わらず気味の悪い笑みのままこちらに近寄り剣を振り上げた。
途端。振り上げたまま石化したかのようにクラージュの動きが止まる。

(な、なんだ……?)

本人も状況がよくわからないのか笑顔から不思議そうな顔に変わり何度も振り下ろそうとする。が、それでも腕が動かない。

(こいつもこいつで戦ってるのか……)

「……ったく、世話の焼ける奴だな……」

ソレイユはふっと笑うと近くに落ちた自分の剣を握り締めた。