あれからほとんど放心状態で学校が終わり、下校時間となった。
みんな明日の実技試験に向けていろんな教室を借りて猛特訓しているが僕にはそれすらする気力がない。

くそ……なんで、一回戦目がソレイユなんだよ……

誰もいない教室の自分の席に座ったまま苛立ちを発散するために髪を掻き毟る。

六年生のこの試験は一番大切だ。
この学園の唯一の不満は一から五年までの試験よりも六年の時の試験のほうが遥かに価値があるというところ。
いくら五年までの成績が良くても六年の試験で一回戦負けはさすがにまずい。
五本指に入るくらいの順位ならまだなんとかなると思うが、一回戦負けは国王軍から推薦が来る希望はない。

「なんでなんだよ……これじゃあ……僕かソレイユが……」

「ーーいいじゃねぇか。たまにはこんな事もあっても」

絶望に浸っていると教室の後ろの扉にソレイユが腕を組んで寄りかかっている。

「よくない! 積み上げてきたものが全て無駄になるんだぞ!」

声を荒らげながらソレイユに近づくとソレイユは軽蔑の視線を僕に向けた。

……ソレイユ……?

「積み上げてねぇじゃねぇか。特にお前は」

「……え?」

いつになく冷たくて低い声に言葉が詰まる。

「ちょうどいいから言わせてもらうが、オレは昔っからお前が大っ嫌いだった。なんの努力もしねぇで剣の力だけでトップになったお前が」

「え、え……」

いつも何があっても怒らないような優しいソレイユの豹変に動揺が隠しきれない。

「な、何言ってんの? ソレイユ……? 怒ってるの? 朝のこと? ワガママ言ったこと?」

半笑いでペラペラと思い当たる事を聞くとソレイユは額に手を当てて大きなため息を吐いた。
一挙一動がなぜかすごく怖い。
自分から聞いてるけど、これ以上何も言わないでほしい。
悪化する前に今はもうどこかへ行ってほしい。

僕はソレイユを嫌いたくない。

「だーかーら。オレはお前が嫌いなんだよ。トーナメントもオレが先生に頼んで仕組んだ。お前をボコすために」

……っ!

その言葉と見下したような表情で僕のソレイユに対するプラスの気持ちが一気に吹き飛んだ。
尊敬の念や大好きだった気持ちや何もかもが小さな実を指で潰すようにプチッと弾け飛んだ。

ーー裏切られた。

僕の脳内に浮かぶ言葉はそれしかない。

「……そうかよ……なら、僕だって全力でお前を潰す!」

牙と敵意を剥き出しにした僕の頬に一筋の涙がつたった。