ーー僕とソレイユは今、医務室にいる。

会場の声援が医務室まで聞こえてきて試験の盛り上がりがわかる。
僕の怪我はそこまで酷くはなかったが、ソレイユはやはり重症でこの後試合を続けるかはソレイユ次第となってしまった。

応急手当を終えたソレイユの寝ているベッドの近くの椅子に腰をかける。

「ソレイユ……この後の試合どうするの……?」

ソレイユにそう聞くと「んー」と頭をかいた。

「どうすっかなぁ……なんか、面倒くさくなってきたから辞退すっかな」

僕は何も言うことが出来ず俯いて自分のズボンをギュッと握った。
ソレイユの事だ。片腕の事や、僕が一回戦敗退した事、全てに気を使って言ったことなんだろう。

片腕なしではいくらソレイユでもハンデが大きすぎるし……

「で、お前はどうすんの? 国王軍の試験は受けんのか?」

僕は顔を上げたが、すぐに目線を斜め下に落とした。
自分でも自分の事がよくわからない。
推薦がなくても国王軍の試験は受けることが出来る。でも、僕の中は推薦が貰えるのが全てだと思ってた。

それに改めて考えるとなんで国王軍に入りたいと思った理由が答えられない。

国を守りたいから? 活躍したいから?

違う。

きっと、自分の強さに浸りたかっただけなんだ。
何も無かった僕に与えられた力を使って僕も特別なんだって言うのを見せつけたかったんだ。

じゃあ、それが無くなった僕はなんのために国王軍に入る?

何もない。元から国王軍に入る理由なんてそれ以外何もない。

僕はたっぷりと考えてから苦笑をうかべた。

「僕はもう一回ゼロからやり直すよ。一度剣の道から外れて他の世界も見てみる」

「お! オレも同じこと思ってた! やっぱさ、ガキの頃からずっと剣やってると飽きるよな!」

ソレイユは勢いよく上半身を起こして食い気味に語り出した。
彼にしては珍しく興奮気味の声。

確か、ソレイユは父親も国王軍の一人だから物覚えがついた時からずっと剣握らされてたって前に言ってたっけ。

「あのさ! オレと旅に出ねぇか?」

「た、旅?」

予想外の言葉にたどたどしく聞き返すと、ソレイユは大きく頷いた。

「おう! 旅! まずはこの国の中から初めて、いずれは国外に出る。まだ見たことない島とかたくさんあるだろうし、最近魔獣も増えてきたみたいだから倒しまくりてぇな!」

小さな少年のように壮大な夢を語るソレイユに思わず表情が緩む。
なんだか、昔のソレイユを見てるみたい。
兵士や軍隊に憧れていた僕とは違い、ソレイユは勇者が大好きだった。
もしかしたら、彼は兵士になって国というものに縛られる人生よりも勇者のように自由にいろんな所を旅する人生を送りたかったのかもしれない。

「うん。楽しそう!」

正直な感想を伝えるとソレイユの表情は徐々に嬉しそうに輝き白い歯を見せて笑った。

ソレイユのこんな表情久しぶりに見たかも。

最近はお互いピリピリしてることが多かった。
昨日みたいに喧嘩をする事はなかったが、こんな風に気を楽にして話すこともなかった。

だから、今のこの時間がとっても楽しい。

「だろ! それで、ゼロからスタートするならまたごっこ遊びから始めようぜ!」

「勇者ごっこ的な?」

「ううん! なりたいモノごっこ!」

「なにそれ?」

理解が追いつかなく聞き返すとソレイユはゴホンっとわざとらしく咳をした。

「なりたいモノごっこは旅をしてる中でなりたいモノを見つけてその真似をするだけの簡単な遊びだ。それで、いつかはごっこ遊びから本物にしてくんだよ」

なりたいモノをごっこ遊びから本物にする、か。

「どうだ? 楽しそうじゃね?」

うん。楽しそう。

でも。

僕は俯いて指をもにょもにょと遊ばせた。

僕がいるとまたソレイユに迷惑かけるかもしれない。
出来ることなら僕も一緒に行きたい。
けど……また傷つけたりしたら嫌だし……足でまといになるのも嫌だ……

返事に困っていると、ソレイユが声を上げた。

「あ、言い方変えるわ」

ソレイユはニッと不敵な笑みを浮かべる。

「お前に拒否権はないから。オレの腕切った責任取れよ?」

……こいつは、僕の心が読める能力でもあるのかな?
それと、もっと他の言い方なかったのかな……ソレイユらしくていいけど。

僕は苦笑を浮かべ肩を竦めた。

「ソレイユって、ほんと不器用だよね。それじゃあ、僕の選択肢は決まってるね」

「性分だ。悪いな」

ソレイユは、ははっと笑い頭をさすった。
僕は座っていた椅子から立ち上がり深く頭を下げる。

「な、なんだよ!? 急に!?」

「何もかも全部ありがとうございます! それと、これからもよろしくお願いします!」

「そんなかしこまんなよ。こちらこそよろしくな」

僕は顔を上げていつものソレイユの笑顔を真似て笑みを見せた。

「うん!」

これからは自分の力で夢を掴み取って、自分の近くにいる大切な人を守っていこう。

僕は心からそう誓った。