団体用の貸し切り部屋、雰囲気の良い和室にはもう半分ほど席が埋まって人が座っていた。

「こんばんは」

「こんばんは。あ、バイトの方ですよね。とりあえずそっちの席へどうぞ」

 3つ連なって並べられた大きな机の端っこのほうへ見知らぬ女性に促されて座る。どうやらバイトはバイト、看護婦は看護婦で固まって座っているらしかった。

 机の横には座布団が並んでいて机の上には既にいくつかの料理と食器が並んでいた。そして、その美味しそうな料理よりも目を引くのは先に来ていた余所行きの服を着た春山だ。

「おつかれ」

「おつかれ様です」

 増川が自然に春山と挨拶を交わす。凛太は意気込んでいたもののやっぱり勇気が出せなくって軽く会釈して机の中では春山と離れた場所に座った。

「春山さん前のシフトの帰りあの後大丈夫だった?」

「はい。問題なかったです。すいません心配かけて」

 増川はなんとなく自分と話している時より楽しそうな顔をしているように見えた。こんなにかわいいバイトの後輩なら男として可愛がらないはずもない。きっと増川も特別な感情があるかは分からないが春山のことがお気に入りなんだろう。

「――いや、あの後に友達に聞いたら真逆でさ」

「そうなんですか」

 春山と増川の何の話か分からない笑い声が聞こえている間に凛太は部屋にいる人たちをざっと見ていった。これが昼間の人たちなのかと借りて来た猫の姿勢で眺めた。

「やあ草部君。隣いいかな」

「あ、院長。こんばんは」

「知らない人が多いから緊張するかもしれないけど今日は好きなもの食べていってくれよ。君は期待の新人なんだから」

 ずけずけと凛太のすぐ近くへ座ってくるのは馬場だった。座布団を少し寄せてまで膝が当たる距離に座る。凛太はさりげなく逆に少し遠ざかった。

 そうはしつつも馬場が次自分の隣でいいのかと思った。もっと気の合う大人の人たちと飲むのかと思っていた。凛太的には知らない人が隣よりかは変人達の中心人物である馬場が隣のほうが楽しめそうではあるけれど。

「それでどうかなここのバイトの調子は。このまま長く続けていけそう」

「まあ……はい。まだちょっと前の悪夢のことで悩んではいるんですけど」

「あれはね。気にせんでいい。メールでも言ったけどしょうがなかったよ」

「はい……」

「それよりも、本当助かったよバイトが1人増えて。あと1人どうにか増やせないかと思ってたんだよね。これからちょっと患者さん増えるから。草部君が入ってくれたおかげでもう探さなくてよくなった。このことはお礼言っとこうと思って」

「いえいえ。そんな」

「ここだけの話ちょっと最初の給料にもおまけしてあげるから。これからも頑張って。本当優秀よ君は」

 やけに褒められて給料も増えるなんて悪い気はしないが、凛太は戸惑った。前の一件が無かったら素直に喜んでこの気さくなおじさんと楽しく会話できたのに。

 しかし、それも酒が入ってくれば叶うと思った。馬場は全く気にしていないのが分かったから。

 そうこうしているうちに桜田や宮部含めて今宵の宴に参加する人たちが集まった。席が全て埋まり、それぞれメニュー表を見て最初に頼むお酒を決めた。