悲鳴が聞こえたほうへ歩く道中も宮部は奇行を繰り返した。作り物のような木を手で掴んで無理やり揺らしてみたり、道端の石ころを拾って窓ガラスめがけて投げてみたり。

 その間に凛太は宮部を注意したり急かしたりはしなかった。宮部が何かに興味を示す度に宮部は止まるが、凛太も止まってその様子を観察していた。患者の悲鳴は続いてないし進んでいる時は宮部も小走りだったからだったからだ。

 何事にも興味津々の小学生男子のような動きをする宮部。もし自分も小学生であるなら、一緒にいて楽しい人だと凛太は思った。次々に遊びを見つけて引っ張っていってくれる。

 悲鳴が聞こえたのはこの辺りではないかという場所まで来ると患者がいると思われる家はすぐに見つかった。庭先に骸骨が落ちている家があった。その家の敷地内には骸骨がいくつかあった。家の中に入るまでに見えたのは4体。

 聞いていたよりは数が多かった骸骨はどれも奇妙なポーズをしていた。股を大きく開いていたり、洗濯物のように物干しざおにぶら下がっていたり、どう捨てられたらそんな恰好で地面に落ちるのかというものもあった。

 夢だと分かっていなくて本物の骸骨だと思えば怖いが凛太はシュールでその絵面が面白かった。骸骨もリアルではなく骨格標本に近いくらいのように見えた。

「おーい。大丈夫っすかー」

 ポケットに手を突っ込みながらかなり軽い感じで宮部は家に入った。お前の家かと思うほど躊躇が無かった。

 その背中について行くと家のお風呂場に患者はいた。中年の女性だった。患者は宮部と凛太を見ると狼狽えながら浴槽の中を指差した。見ると浴槽の中には庭にいたような骸骨が1つ落ちていた。お湯が張られていない浴槽の中でまるで気持ちよく風呂に浸かっているかのように骸骨はいた。

 患者の年齢くらいの女性はやけに純粋そうなイメージがあって、凛太はこの人もすごく怖がりなんだろうなと思った。

「大丈夫ですか。落ち着いてください。これは夢です」

 凛太は患者に歩み寄って声をかけた。患者の手にはゴム手袋が付けてあって風呂掃除中に骸骨と出くわしたらしかった。

「夢って……ちょっとあなた何してるの。危ないわ」

 またもや宮部は予想できない行動を取りだす。患者に声をかける凛太の後ろで宮部は骸骨を持ち上げていた。物珍しそうに骸骨とにらめっこしていた。

「宮部さん。治療はちゃんとやるんじゃなかったんですか」

「だってこれどかしたほうがええやろ」

 宮部は風呂場の窓から手に持っている骸骨を投げ出した。