「何やってるんですか宮部さん」

「これとこれとこれと……お、こんなもんまであるじゃん」

「はい?いや、ちょっと……」

 宮部は凛太の言葉に全く耳を傾けず、冷蔵庫の中から腕いっぱいに食べ物や飲み物を持ち出して、家のリビングにあった机に座った。

 まずは1ℓパックに入ったコーヒー牛乳らしき飲み物の封を開けて、そのまま口に運び、その後は高そうなボンレスハムを塊ごと頬張る。そんな宮部にかける言葉が凛太は見つけられなかった。

「……これって……何の時間なんですか?」

「飯、食うてんねん」

「あ、そうなんですか……そうですよね」

 宮部は凛太と目を合わせたまま口いっぱいに入った食べ物を咀嚼し続けた。その目に自分がおかしなことをしているという自覚は感じられなくて、何か文句でもあるのかと驚いているようだった。

「兄ちゃんも座ったらどうや。まだ冷蔵庫の中になんか入ってたし」

「こんなことしてる場合じゃないでしょ」

「こんなこと夢の中でしかできんやん」

 迷った末に凛太は宮部の前に座る。この男のことを理解できないが、こうなったらとことん付き合ってみることにした。

 確かに、現実ではできないことを宮部はやっている。人の家に勝手に入って冷蔵庫の中のものを食べるなんてただの泥棒だ。

「これうまいな。やっぱ金持ちはいいもん食べてんなあ」

「…………」

「テレビもでっかいなあ。何インチやこれ」

「…………」

「俺以外のここのバイトの奴はこんなことしなかったか?」

「はい」

「じゃあ今回が初めてか。俺はこういうことするで」

「こういうことって……」

「兄ちゃんは初めて夢の中に入った時にこういうことしようと思わんかったんか。俺は最初っからだったで」

 宮部はそこまで言うと、近くに置いてあった花瓶を持ち上げた。これまた高そうな良い花瓶にそこに植えられた見たことが無い綺麗な白い花。

 そして、持ち上げたまま凛太を見てにやりとすると、あろうことかそれを床へ勢いよく投げ捨てる。

「ここではな。何をするのも自由や。こんな楽しい世界はない。自由にせんともったいないやろ」

「…………」

「いや、ごめんごめん。驚かすつもりは無かったんや。そんな顔せんとって。ただ見せたかっただけ。この世界の凄さを。でも、兄ちゃんは一回も考えかったんか。この世界で現実ではできないことをして楽しむって」

 その言葉には凛太は躓かされた。思うところがあった。

 正直なところ、どうなんだろうとは考えたことがあった。もし、悪夢治療とは関係のない場所に行って関係のないことをしたらって。例えば、知らない人の家に入ればそこには何があるんだろうって。

「ちょっとまた話をしようか。面白い話や。この夢の中の世界についてのこと」

「いや、でも……」

「大丈夫大丈夫。治療のこと心配してんやろ。それもあとでちゃんとするから。今回の夢は簡単そうやから急がんでもええ」