4連休からの3連勤、その最後の1日に望もうとする凛太は緊張していた。自宅でバイトへ行く準備をしながら、いつもの赤い看板の不気味なビルに入ってからのことを想像していた。

 持って帰って選択するようになった制服をベランダから取り込んで畳む。洗剤と洗いたい服を片っ端から洗濯機の中に放り込む選択しか知らないので、洗う前より形は崩れていた。けれど、匂いは自分が1番好きな匂いで着心地は良くなったと思う。

 その制服を鞄にしまう間も凛太は上の空だった。

 今日一緒にシフトに入る予定の宮部という男がどうやら変わり者らしくてそれが不安だった。あまり評判が良くないらしい。

 まだ桜田に聞いただけだが、増川や春山とは人としてのタイプがまるで違うことは聞いた。どういう風に違うのか凛太は尋ねたけれど、「明日会ってみれば分かる」とだけ言われた。説明するのは難しいというのだ。

 続けて桜田は「私は変わり者過ぎて苦手だな」と言っていた。桜田自身も充分に変わり者なのだが、その桜田から見て変わり者過ぎるというのだから宮部がよっぽどの変わり者であることは間違いない。

 凛太はその変わり者に目を付けられないようにしないといけないと心に言い聞かせていた。全くどんな男か想像つかないが、先輩であるらしいし失礼のないように上手く立ち回らなければならない。

 今日は春山にも桜田にも会わない日なので、髪をセットせずに鏡で軽く顔に変なところがないかチェックして、それが終わると凛太は鞄を持って家を出た。

 それと、今日も悪夢治療をミスなくしっかりこなすという決意も持って――。


 とまと睡眠治療クリニックに着いて、自転車を止めるとそこにはもう初めて見る原付バイクがあった。少し早めに来たつもりだったがおそらくもう宮部は来ているらしい。

 凛太は裏口の扉をしっかり閉めてから、まっすぐ前だけ見てバイト準備室に向かった。バイトの面接に来た時に言われたルールだから、未だに守っているが一体このルールは何なんだろうかとふと思う。変な仕事だし関係のない人に知られてはいけないことが多いのか。

 バイト準備室の前まで来ると、宮部がいるであろうから凛太はドアをノックしてから開く。

「失礼します」

 凛太が中に入って、ドアが完全に閉まっても返事は無かった。しかし、男はそこにいた。椅子に深々と座り腕を組んでいる。

「おはようございます……」

 男は凛太が近づいてもピクリともしない。うつむいていて顔が良く見えないが、どうやら寝ているようだった。

 男が座る椅子の下にはコンビニで売られているおにぎりやサンドイッチの包装フィルムが食い散らかされていた。さらに男の来ているシャツがボロボロでサイズもでかく、なんだがとにかく汚らしい男だった。

 少し離れた場所から一見したところではこれが本当に宮部でいいのかと思う。聞くところによると桜田と同い年のはず。それなのにどこかおじさん臭く見える。髪もぼさぼさしていてホームレスだとしても驚かない。

 凛太はその男にそっと近づいた。そして、少し近づいて分かったのは男の目はしっかりと開いている事だった。

「え」

「うわっ!びっくりしたあ。誰やお前」

 突然男が大声を出す。びっくりしたのは凛太のほうだった。