時間は経過した。そしてその時間という概念は凛太の心境を徐々に良い方向に回復させていった。
もしも凛太がバイトを宣言通りさっさとやめてしまった場合を考えていたのか、凛太には4日も休む期間が与えられていた。凛太が馬場に見せていた態度は続けると言った先日のシフトまではやめる気満々のものだった。さすがにあの図々しい男も絶対の自信は無かったららしい。
それならそれで逆に4日の休みでは少ないかもしれないが、凛太にとってはありがたい時間だった。
時間というものは何もせずに過ごしているだけでも人の考え方を変えてしまう。悲しみや怒りなんて感情は特に時間によって薄められていってしまう。時間が解決してくれるとはよく言ったもので、凛太が生きてきた中でまたその言葉を実感する時であった。
逆に時間によってより不安になってしまう悩みもこの世にはたくさん存在するだろうし、忘れたくないはずの感情も時には時間が忘れさせてしまう。そんなこともあるけど、今回の凛太の悩みは時間が薬になるものだった。
何もしていないと言っても、少しづつ凛太の考えを変化させることはあった。まずは春山から連絡があったこと。
大学の講義で一緒になることも多かったし、何かのグループトークでメッセージのやり取りをしたことはあって、お互いに連絡先は知っていた。けれど、個人では一度もやり取りしたことが無かった。
そんな近いようで遠い距離が今回の件で縮まった。
「院長に前の患者さんと会いたいって言ってみたけどダメだった。私はもう忘れることにしたから、草部君もまだ悩んでるなら元気出して。考えたって仕方ないよ」
そんな感じのメッセージだった。単純に書いていることを読み解くのなら、励まされている応援の言葉で、春山が回復したなら自分もと思えた。しかし、凛太は春山もまだ悩んでいるんだなと思ってしまった。無理しているように見えた。凛太の知る春山はそういう女の子だった。
しかし、気持ちが楽になったメッセージであることは間違いなかった。自分と同じ気持ちを抱えている人が確かにいる。それが分かった。
あとはどんなメッセージでも春山から自分に送信されたという事実を嬉しく思ってしまった。今までは眺めるだけだった春山のアイコンが自分に向けて文字を出している。
それでも……それでもまだ寝る前に電気を消すと、あの時の絶望の感情が蘇ってきて眠れなくなる。
考えたって仕方ない……凛太も出した答えだった。どう考えてもその答えにしか辿り着かない。初めから答えはそうだった。
だから、凛太は今の悪夢治療バイトを続けることにあの日決めた。罪を犯した分、より多くの人を救うとかそんな立派な医者のようなことがちらりと頭に浮かんだ。そんな大層な志を本気で掲げたわけではないが、きっとあのままやめてしまうとより苦しかった。
バイトを続けてもっと色んな悪夢を見て、自分の手で治療出来た人が増えたほうが気持ちが楽になると思った。
だから凛太はまた明日、悪夢治療バイトに望む。
生活リズムが乱れて、昼夜逆転した凛太が眠る午前5時過ぎのベッドの中。外からは車が走る音が聞こえだした。
睡眠導入剤として飲んだアルコール度数の高いチューハイが歯磨きをした後も、ミントと共に口の中に風味を残す。
凛太はクッションを抱きながら、ほとんど何も考えられなくなった頭で、眠る寸前に「明日からは。明日こそは」と念じた。
もしも凛太がバイトを宣言通りさっさとやめてしまった場合を考えていたのか、凛太には4日も休む期間が与えられていた。凛太が馬場に見せていた態度は続けると言った先日のシフトまではやめる気満々のものだった。さすがにあの図々しい男も絶対の自信は無かったららしい。
それならそれで逆に4日の休みでは少ないかもしれないが、凛太にとってはありがたい時間だった。
時間というものは何もせずに過ごしているだけでも人の考え方を変えてしまう。悲しみや怒りなんて感情は特に時間によって薄められていってしまう。時間が解決してくれるとはよく言ったもので、凛太が生きてきた中でまたその言葉を実感する時であった。
逆に時間によってより不安になってしまう悩みもこの世にはたくさん存在するだろうし、忘れたくないはずの感情も時には時間が忘れさせてしまう。そんなこともあるけど、今回の凛太の悩みは時間が薬になるものだった。
何もしていないと言っても、少しづつ凛太の考えを変化させることはあった。まずは春山から連絡があったこと。
大学の講義で一緒になることも多かったし、何かのグループトークでメッセージのやり取りをしたことはあって、お互いに連絡先は知っていた。けれど、個人では一度もやり取りしたことが無かった。
そんな近いようで遠い距離が今回の件で縮まった。
「院長に前の患者さんと会いたいって言ってみたけどダメだった。私はもう忘れることにしたから、草部君もまだ悩んでるなら元気出して。考えたって仕方ないよ」
そんな感じのメッセージだった。単純に書いていることを読み解くのなら、励まされている応援の言葉で、春山が回復したなら自分もと思えた。しかし、凛太は春山もまだ悩んでいるんだなと思ってしまった。無理しているように見えた。凛太の知る春山はそういう女の子だった。
しかし、気持ちが楽になったメッセージであることは間違いなかった。自分と同じ気持ちを抱えている人が確かにいる。それが分かった。
あとはどんなメッセージでも春山から自分に送信されたという事実を嬉しく思ってしまった。今までは眺めるだけだった春山のアイコンが自分に向けて文字を出している。
それでも……それでもまだ寝る前に電気を消すと、あの時の絶望の感情が蘇ってきて眠れなくなる。
考えたって仕方ない……凛太も出した答えだった。どう考えてもその答えにしか辿り着かない。初めから答えはそうだった。
だから、凛太は今の悪夢治療バイトを続けることにあの日決めた。罪を犯した分、より多くの人を救うとかそんな立派な医者のようなことがちらりと頭に浮かんだ。そんな大層な志を本気で掲げたわけではないが、きっとあのままやめてしまうとより苦しかった。
バイトを続けてもっと色んな悪夢を見て、自分の手で治療出来た人が増えたほうが気持ちが楽になると思った。
だから凛太はまた明日、悪夢治療バイトに望む。
生活リズムが乱れて、昼夜逆転した凛太が眠る午前5時過ぎのベッドの中。外からは車が走る音が聞こえだした。
睡眠導入剤として飲んだアルコール度数の高いチューハイが歯磨きをした後も、ミントと共に口の中に風味を残す。
凛太はクッションを抱きながら、ほとんど何も考えられなくなった頭で、眠る寸前に「明日からは。明日こそは」と念じた。