そうだ……たぶんそうだ。いや、間違いない。ここにいればとりあえず安心かもしれない。

 でも、だとしてもこれからどうする……。

「それで、どうするつもりなの春山さん。俺にはもう正直何が何やらで、どうしていいか分かってない。この夢は今どうなってるのか分かる?」

「ごめん。私にも全然分かんない」

「分かんないけど、そいつは助けたいと」

「うん」

 もし、相手が思い人で無ければ、カッとなってしまうような発言と状況ではあるけれど、凛太の心に怒りは全く無かった。それどころか、どうやって春山の望みを叶えようか親身になって考えていた。

「たぶんここは安全だ。だからそう仮定して、ゆっくり整理しようか。俺たちはバイト中で、患者さんの悪夢に入った。それは間違いないよね」

「うん」

「で、患者さんと会ってここまで来た。でも、患者さんは幽霊みたいになった」

「じゃあ、あれは患者さんじゃなかった」

「……そうなるね」

 言いながら、凛太も頭の中を一つづつ整理整頓していった。さっさと抜け出したくなる赤い部屋の中。緊張状態が逆に頭の働きを円滑にする。

「つまり、患者さんは別にいるのか」

「あ、それだ。本物の患者さんがどこかにいて、その人が夢だと分かってくれればこの芋虫さんを殺さなくて済むよね」

「うん……そうだね」

 二人で話し合い、導き出された答えは思いの外シンプルだった。急なことで面を食らってパニックになっていたようだ。でも……。

「でもさ、現実の患者さんの悪夢ファイルは気持ち悪い生物がいるってやつだったよね。やっぱり辻褄が合ってない」

「うーん……今日はたまたま幽霊も出てくる夢を見ちゃってるんじゃない」

「そんな話なの?」

「夢っていつも全く一緒じゃないから。前のバイトでも悪夢ファイルの内容と夢の内容がずれてたことはあるよ」

「へー。じゃあそうなのかも」

「うん、だからこの家にいるかもね本物の患者さん」

 話はそういう形に落ち着いて、凛太と春山は家のまだ行っていない場所を探すことにした。別々に分かれて隣の部屋から三階まで、暗いながらも一つずつドアを開けて確認していいく。

 その間も霊は襲っては来なかった。静かだった。凛太の予想は確信に変わっていた。けれど、ただ待たれているというのも怖い。家の玄関でただずっとそこにいる。

 家を捜索する間も凛太は霊の姿がちらつく。春山には絶対に1階には行かないほうが良いと言っておいた。

 しかし、全ての部屋を見終えても本物の患者らしき姿は見当たらなかった。

「そっちもいなかったか……」

「もっとよく探してみようか」

 こうなれば収納の中やベッドの下まで、人が入れそうな場所を全て見ていくしかないかと凛太は思った。

 しかし、その時止まっていたはずの霊は動いた――。

 凛太と春山が行き着いた3階の月明かりが最も差し込む部屋。その壁に何かがぶつかったような大きな音がする。そして次の瞬間、窓が割れる。

「そこで何してんだよ……話が違う」

 窓から顔を出し現れたのは霊だった。