凛太はそれが正直嫌だった。春山の言う通りにして、芋虫と女子中高生を会わせてしまうと良くないことが起きる気がする。
今まで見た怖い悪夢の時に経験したことと似ている。空気がより濃く感じられて息苦しくなってくる。何でそう感じるかは分からないけれど。
だから、凛太は春山を止めることができなかった。根拠もなしに悪夢治療バイトの経験が浅い自分が春山の感じた違和感を否定することはできなかった。無理やり芋虫を殺して、春山という天使に嫌われるのも嫌だったし。
「春山さんが言うならそうしてみようか。本当にそいつは持ってて大丈夫?」
「うん。おとなしいよ」
凛太と春山の二人は部屋の中を出て階段を下りた。
「たしかにやっぱりおかしいよね……」
凛太は赤い部屋を振り返り、春山には聞こえない声量で言った。この夢の中に来てからいくつも違和感を感じていた。ただ気持ち悪い生物が出る夢にしては何もかもが不気味すぎる。
それが分かっていながらも、考えたくなかった。そこから目を逸らして芋虫を殺すことで終わりにしたかった。そうすれば、たとえそれが間違ったことであっても、人に言われたことだからと責任逃れ出来る。
だけど、こうなってしまったから仕方ない。自分だけでなく春山もそう感じているのなら、きっとこれまでの違和感は気のせいなんかじゃない。なぜかもう確信できる……息を潜めて待ち構える恐怖に向かって凛太は家を出た。
「あの……」
玄関を出ると同時に春山が呼ぶように言った。
凛太は女子中高生を探した。家を出てすぐ、入る前にいた場所には彼女の姿は無かった。
じゃあ、どこにいるかと、辺りを探すとすぐにその姿はあった。家から少し離れた道の真ん中。よく表情も見えない場所でただずっと佇んでいた……。
「あの」
凛太も女子中高生を呼んだ。
そうすると、気づいたのか彼女はこちらに向かって歩いてきた。その歩き方……速度……そして、うっすら見えた表情までもがさっきまでとはまるで違っていた。
なぜだろうか、そこでまたしても凛太は動きを止めた。たぶん逃げたほうが良い。予想通り悪いことが起きてる。分かっていても目を離せない。全く想像できなかった恐怖。
平凡だった女子中高生が怒りに満ちた表情で顔を引きつらせている。前のめりの姿勢で襲い掛かるタイミングを計るような歩き方……。すぐに逃げないと。分かっているのに……。
「ま、さか……連れ出し……てきてくれるなんて」
唸るような枯れた低い声がした時にようやく凛太は動いた。隣の春山も動けていなかった。たぶん春山の場合はただ怖かったから。表情を見れば分かる。
「春山さんっ」
咄嗟だったから手を強く引いた。一緒に後ろの家の中へ逃げ込む。そこにしか逃げ道がなかった。
霊のような見た目になった女子中高生からの。
今まで見た怖い悪夢の時に経験したことと似ている。空気がより濃く感じられて息苦しくなってくる。何でそう感じるかは分からないけれど。
だから、凛太は春山を止めることができなかった。根拠もなしに悪夢治療バイトの経験が浅い自分が春山の感じた違和感を否定することはできなかった。無理やり芋虫を殺して、春山という天使に嫌われるのも嫌だったし。
「春山さんが言うならそうしてみようか。本当にそいつは持ってて大丈夫?」
「うん。おとなしいよ」
凛太と春山の二人は部屋の中を出て階段を下りた。
「たしかにやっぱりおかしいよね……」
凛太は赤い部屋を振り返り、春山には聞こえない声量で言った。この夢の中に来てからいくつも違和感を感じていた。ただ気持ち悪い生物が出る夢にしては何もかもが不気味すぎる。
それが分かっていながらも、考えたくなかった。そこから目を逸らして芋虫を殺すことで終わりにしたかった。そうすれば、たとえそれが間違ったことであっても、人に言われたことだからと責任逃れ出来る。
だけど、こうなってしまったから仕方ない。自分だけでなく春山もそう感じているのなら、きっとこれまでの違和感は気のせいなんかじゃない。なぜかもう確信できる……息を潜めて待ち構える恐怖に向かって凛太は家を出た。
「あの……」
玄関を出ると同時に春山が呼ぶように言った。
凛太は女子中高生を探した。家を出てすぐ、入る前にいた場所には彼女の姿は無かった。
じゃあ、どこにいるかと、辺りを探すとすぐにその姿はあった。家から少し離れた道の真ん中。よく表情も見えない場所でただずっと佇んでいた……。
「あの」
凛太も女子中高生を呼んだ。
そうすると、気づいたのか彼女はこちらに向かって歩いてきた。その歩き方……速度……そして、うっすら見えた表情までもがさっきまでとはまるで違っていた。
なぜだろうか、そこでまたしても凛太は動きを止めた。たぶん逃げたほうが良い。予想通り悪いことが起きてる。分かっていても目を離せない。全く想像できなかった恐怖。
平凡だった女子中高生が怒りに満ちた表情で顔を引きつらせている。前のめりの姿勢で襲い掛かるタイミングを計るような歩き方……。すぐに逃げないと。分かっているのに……。
「ま、さか……連れ出し……てきてくれるなんて」
唸るような枯れた低い声がした時にようやく凛太は動いた。隣の春山も動けていなかった。たぶん春山の場合はただ怖かったから。表情を見れば分かる。
「春山さんっ」
咄嗟だったから手を強く引いた。一緒に後ろの家の中へ逃げ込む。そこにしか逃げ道がなかった。
霊のような見た目になった女子中高生からの。