あと2回となった「とまと睡眠治療クリニック」での悪夢治療バイト……。熱せられたアスファルトも冷たさを取り戻してくる時間帯。赤く光る看板を重い気持ちで見た凛太は今日も覚悟を決めて中に入った。
真っ直ぐに廊下を進み、バイト準備室に入ると既に今日一緒に夢の治療を行う桜田が来ていた。
「おはようございます」
「おはよう草部君。今日はよろしくね」
凛太が挨拶すると桜田は小さく手を振りながら答える。今日もマネキンのようなスタイルで美しくて、それがいかれたバイトの唯一の救いだった。この美人と一緒ならばぎりぎり頑張ってみようという気持ちが湧かなくもない。
そんな桜田は凛太が室内に入るとすぐに患者の悪夢が書かれた悪夢ファイルをチェックした。まるで小中学生が給食の献立を確認するかのように愉快な面持ちで。
「えっと、今日の患者さんの悪夢は眠る度に夢の中で友達が家に遊びに来て……うるさく騒ぎ始めて起こされるだって。なにこれ全然面白くなさそう」
けれど、放たれた言葉は凛太にとっても予想外の話だった。
「え、今日の悪夢ってそんなんなんですか」
「うん。しょーもない悪夢だこと……こんなの悪夢じゃないでしょ。あ、でも待って今日はもう1個ある」
何だよ。期待させるなよ……と、凛太は思った。なんか知らないが思ったより楽な仕事だと喜んだけれど、どうせもう1つは怖いやつだ……。
「ああ、でもこっちも駄目だ。今好きな人がいるんですが最近その人へ告白する夢ばかり見ます。でもそれはいつも失敗して、しかも彼に罵声まで浴びせられてしまいます……だって」
「それって、何というか……怖くないですね」
「うん。何も怖くない。今日はハズレの日だね……」
願ってもないことだった。まさかまさかの怖くなさそうな夢に凛太は喜ぶよりもまず先に肩の力が抜けた。気負っていたのにどうやらその必要は無かったらしい。
自分のロッカーと向かい合って、桜田から顔が見えない位置に来ると凛太はようやく口を開けて笑顔になった。胸の底から喜びが湧いてくる。
「はあ。なんだか萎えたなあ。今日は良い予感がして、気合入れて来たのに……」
凛太に対して、桜田は露骨に落ち込んだ様子だった。それもそのはず、この美人は幽霊大好き女なのだ。この前のシフトでそれは嫌というほど分かっている。
「まあ、草部君が一緒なら怖くないほうがいいか。今日はさくっと終わらせて家でホラー映画でも見よ」
桜田が凛太にとっては都合が良いことに気づいた時、22時になって仕事が始まった……。
「草部君のこの前のシフトの時の悪夢は怖かったんでしょ。増川さんにちらっと聞いたけど」
「はい。僕にとっては怖すぎましたね。なんか保育園児たちがゾンビ化してて……」
「何それめっちゃいいじゃん。私も見てみたかったなあ。詳しく聞かせてよ」
凛太はそれからこの前の悪夢の話を中心に桜田と雑談をした。桜田が興味津々で聞いてくるものだから好まない話題ではあったが、気持ちも楽になっていたし話していて楽しかった。
その中で、桜田がホラー好きであることも本人から直接聞いた。聞くところによるとある程度の話題作ならありとあらゆるホラー映画を網羅していて、最近ではホラーゲームにハマっているらしい。
そして、そんな雑談をしているとすぐに患者の悪夢は始まった。凛太は3日目のバイト1人目の悪夢へ向かう。
真っ直ぐに廊下を進み、バイト準備室に入ると既に今日一緒に夢の治療を行う桜田が来ていた。
「おはようございます」
「おはよう草部君。今日はよろしくね」
凛太が挨拶すると桜田は小さく手を振りながら答える。今日もマネキンのようなスタイルで美しくて、それがいかれたバイトの唯一の救いだった。この美人と一緒ならばぎりぎり頑張ってみようという気持ちが湧かなくもない。
そんな桜田は凛太が室内に入るとすぐに患者の悪夢が書かれた悪夢ファイルをチェックした。まるで小中学生が給食の献立を確認するかのように愉快な面持ちで。
「えっと、今日の患者さんの悪夢は眠る度に夢の中で友達が家に遊びに来て……うるさく騒ぎ始めて起こされるだって。なにこれ全然面白くなさそう」
けれど、放たれた言葉は凛太にとっても予想外の話だった。
「え、今日の悪夢ってそんなんなんですか」
「うん。しょーもない悪夢だこと……こんなの悪夢じゃないでしょ。あ、でも待って今日はもう1個ある」
何だよ。期待させるなよ……と、凛太は思った。なんか知らないが思ったより楽な仕事だと喜んだけれど、どうせもう1つは怖いやつだ……。
「ああ、でもこっちも駄目だ。今好きな人がいるんですが最近その人へ告白する夢ばかり見ます。でもそれはいつも失敗して、しかも彼に罵声まで浴びせられてしまいます……だって」
「それって、何というか……怖くないですね」
「うん。何も怖くない。今日はハズレの日だね……」
願ってもないことだった。まさかまさかの怖くなさそうな夢に凛太は喜ぶよりもまず先に肩の力が抜けた。気負っていたのにどうやらその必要は無かったらしい。
自分のロッカーと向かい合って、桜田から顔が見えない位置に来ると凛太はようやく口を開けて笑顔になった。胸の底から喜びが湧いてくる。
「はあ。なんだか萎えたなあ。今日は良い予感がして、気合入れて来たのに……」
凛太に対して、桜田は露骨に落ち込んだ様子だった。それもそのはず、この美人は幽霊大好き女なのだ。この前のシフトでそれは嫌というほど分かっている。
「まあ、草部君が一緒なら怖くないほうがいいか。今日はさくっと終わらせて家でホラー映画でも見よ」
桜田が凛太にとっては都合が良いことに気づいた時、22時になって仕事が始まった……。
「草部君のこの前のシフトの時の悪夢は怖かったんでしょ。増川さんにちらっと聞いたけど」
「はい。僕にとっては怖すぎましたね。なんか保育園児たちがゾンビ化してて……」
「何それめっちゃいいじゃん。私も見てみたかったなあ。詳しく聞かせてよ」
凛太はそれからこの前の悪夢の話を中心に桜田と雑談をした。桜田が興味津々で聞いてくるものだから好まない話題ではあったが、気持ちも楽になっていたし話していて楽しかった。
その中で、桜田がホラー好きであることも本人から直接聞いた。聞くところによるとある程度の話題作ならありとあらゆるホラー映画を網羅していて、最近ではホラーゲームにハマっているらしい。
そして、そんな雑談をしているとすぐに患者の悪夢は始まった。凛太は3日目のバイト1人目の悪夢へ向かう。