保育園の園庭でミニチュアのような服を着た小さな子たちが無邪気に走り回っている。胸にはチューリップの形をした名札。

 しかし……その手足は……死体のような見た目をしていた。

 手足は赤みが強くてただれたようになっている。そこにはカビっぽい青色も含まれていて一部脱落してしまっている部分もある。骨まで見えそうなほど。筋肉の線は言うまでもなく丸見えだ。

 いわゆるゾンビに近いかもしれない。ちらりと1人の男の子らしい園児の眼が見えた白目をむいているように真っ白だった。

 異様なのはそれらが絵に描いた園児のように当たり前に遊んでいるということ……。

 凛太と増川はその光景を目にすると、とりあえず保育園の隣の建物のほうへ下がり腰を低くしてかがんだ。

「先生みたいな人は見えた?」

「いえ。……あれにしか目が行きませんでした」

「多分の保育園の建物の中だろうね。ちょっともう一回見てみる……」

 増川がもう一度保育園に近づいて、誰かを尾行するように首だけフェンスのほうへ伸ばした。

「うーん。やっぱ外からじゃ見えないね」

 この男はあれを見ても何も感じないのか……。凛太はもう今すぐ帰りたい気持ちになっていた。

 あんなもの二度と目にしたくない。その場にあった電柱に背中を預けて、そのまま尻がアスファルトに付きそうなほど脱力する。

「害はなさそうだし、ちょっと怖いかもしれないけど、中に入って患者を探そうか」

「……はい」

 凛太は目を瞑って、そのままため息を吐くように答えた。

 そのことを疑問に思っているのが自分だけで、凛太はまるで最悪のパラレルワールドにでも来たように感じた。まあ悪夢なんてそのようなものだけれど……。

 堂々と正面から園庭に入った増川は園庭のど真ん中を堂々と通って奥の建物を目指した。赤い屋根のガラスには花のシールが貼られたかわいい建物は隣の恐怖を引き立てる。

 園庭の中ほどまで増川の背中を頼りに歩いたが、今のところ腐った園児たちは各々遊んでいてこちらに何かをしてくることは無かった。

 ある者は砂場で、ある者はジャングルジムで、遊具を使って遊んでいる奴もいる。

 こちらに危害を及ぼさないことは良いのだが……近くまで来ると気持ちの悪さが何倍にもなった。鬼ごっこをしている奴のタッチする音は肉をつぶすようなちゃんと腐った手をぶつける音がして、腐った園児が滑り台を滑った後には濃い色の血の跡が付いていた。

 吐き気も催した。久しぶりの感覚だ。喉の下らへんが内側から触られているように不快だ。

 近くで転んだ園児の顔は元からひどいものだったのに、より血だらけでひどいものなった。さらにその園児の眼から白い球体がぽろりと土の上に落ちた時、凛太はいよいよえづいた。

 本当に吐かないように手で口を抑えて、一応増川にかからない方角を向く……。

「うあああああああああああ!」

 その時聞いたのは増川の悲鳴だった。慌てて増川のほうへ視線を戻すと、増川の足下に1人園児がいるのが分かった。

「お兄ちゃんも一緒に遊ぼうよ」

 今度は隣から声がして、凛太の足下にも園児が1人現れる長い髪をした腐った女児だった。

 そして、増川が叫んだ理由がすぐに分かった。

 腐った女児に触れられた手首……凛太の左手首が周りの園児たちのように腐っていた。