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「先生、どうしたんですかボーッとして」

「ちょっと過去のことを振り返っていた」

「どんな?」

「秘密」

「……ふーん」


 若干膨れ上がった少女は、心の中でどういう感情を渦ませているのだろう。時間を共に過ごしているうちに、互いの心情が理解出来るようになるのだと信じたい。

 何を考えているのか分からないが、機嫌がいいわけではないとははっきり分かるその顔が、今はただ可愛いと感じた。


「なんで笑ったんですか?」

「なんでも。ほら、夜になる前に引っ越し整理は終わらせるぞ」

「あっ! 勝手に物は触らないで下さいね!」

「分かってる」





 俺と両親が隠している秘密を知ったとき、彼女がどういう顔をするのか。

 嫌悪だろうか。

 拒絶だろうか。

 ショックだろうか。



 ……しばらく苦労が絶えなさそうだ。



 どんな顔色を示したとしても、その表情は――





『それとも、独り占めにする?』





 その表情は、俺だけの秘密にしたい。
 


―了―