下手に返事は出来なかった。
彼女も、彼女の旦那も、俺自身も分かっている。彼らの行動は今の俺にとってはデメリットしかなく、メリットがない。
親同士の約束に巻き込まれた完全な被害者だと彼らの目には映っている。
たとえ自分自身が被害者だと思っていなくても、彼らの目には……。
『娘さんにはどこまで秘密に?』
『本当は兄と妹ではないということ。あなたはあの子の前では、実の兄でいてあげて。そして、あの子がいる前で、私とあなたは実の親子。忘れないで』
『分かりました』
『あなたが婚約者だということは、あの子が卒業するまで誰にも言っては駄目。言いたくなっても堪えて。あの子が卒業して、あの子と十分に絆を得たと思ったときに、あなたの口からあの子に伝えてあげて』
『俺でいいんですか?』
『あなたでいいの。場所もどこでもいい。私達がいなくてもいい。でも、後で報告だけはしてちょうだい? あなたが婚約者だと知ったとき、あの子がどんな顔をしたのか知りたいわ。それとも――』