俺は石動シュウイチ。

本来ならば至って普通の人間だ。

こんな剣と魔法の世界にでも飛ばされなければの話だがな。

謎の魔法使いイースが放った禁断の魔術“デ・ク・レジェンド”の余波でこの世界に吸い込まれた、というのがことの発端だ。

この世界に迫る脅威“怪獣”に立ち向かう術は他になく、パラレルワールドをも巻き込む禁断の魔術で刺し違えるしかなかったそうだ。

しかし第2第3の“怪獣”が現れては人類を貪り続け、この世界の人類は絶滅の危機に瀕していた。

そして俺は明日、死ぬ。

主だった戦士や魔法使いはほとんど戦死。この砦に残っているのは女子供と負傷者だけだ。

今や子供までもが義勇兵として戦力にカウントされている。

そんな状況で一応は成人男性である俺が守られる側にいつづけられる道理はなかった。

こんな剣術も魔術も出来ない俺が戦線に出ても的にしかならないだろう。

そうだ。俺は明日死ぬ。ほぼ確実に死ぬんだ。

訳の分からないまま異世界に連れて来られて、何も良いことがないまま死んでいくんだ。

せっかくの異世界なのだからハーレム的なお楽しみくらいあっても良かったはずだろう。

いや男女比で言えば今の状況もハーレムと言えなくもないが、そういうことじゃない。

とにかく俺は何も良いことが無いまま死ぬんだ。

「悲観しても何も良いことは無いぞ?」

「何⁈誰だ⁈」

声が聞こえて、俺は辺りを見回す。

だが誰もいない。

「私は…今はルギィと名乗っておこうか。まあ幽霊みたいなモノだと思っておいてくれ」

「幽霊⁈呪い殺すなら未来がある奴にしてくれ!俺はどうせ明日死ぬんだ!1分1秒でも長く生きさせてくれ!」

「殺すとは言ってないってば。むしろ生きる術を与えにきたのさ」

「へ⁈」

「私は元魔法使いだ。怪獣と戦い、どうにか生きて帰ってこれる程度の魔法ならば君に授けることができる」

「俺が魔法を?そんなの無理だって!」

「できるさ。君は元々いた世界の言語を話す感覚で喋っているが、この世界の人間とコミュニケーションをとれているだろう?無意識のうちに翻訳魔法を発動しているんだ」

「だとしても、一夜漬けで怪獣と戦える魔法を習得できるのか?」

「できるとも。1種類だけ、本当に必要な1種類の魔法だけを教えよう」

「1種類だけ?何の魔法だ?」

「最高位の防壁魔法さ」

「だから無理だって!」