実家の母から、荷物が届いた。
野菜や果物……缶詰めはいらないって言ってるのにサバ缶とツナ缶。それから、ダンボールの中で異様な存在感を醸し出している昭和レトロなお菓子缶。
大分古びていて角やフチが錆びている。中身がお菓子じゃないのは明らかだ。
開けると、古いハンカチで作られた、頭でっかちなてるてる坊主が出てきた。
「あ、これ……」
覚えてる。大事な思い出だ。
✽
幼い頃、雨はなんで降るのかと聞いた私に、
『神様が、泣いているのかもね』
と、答えた母。
どこか痛いのかな
それとも、
悲しい事があったのかな
そう言った私に母は微笑んで。
『早く元気になれる様に、お友達を作ってあげようか!』と提案した。
そうして幼い私が初めて知った、てるてる坊主。
ティッシュを何枚も使って出来た真っ白な人形は、頭がまんまるでフリルの洋服を着ていた。
でも、形は可愛いけど、目と口が無い。のっぺらぼうは妖怪だ。妖怪は怖い。これでは、神様は余計泣いてしまうのではないか……と、幼いながら思った。
――泣き虫の私が泣くと、母はハンカチで涙を拭ってくれキャンディーをくれる。
その甘い味と優しい手は、いつも泣き止むきっかけをくれた。
神様、てるてる坊主のこと怖くないのかなぁ……。優しいのっぺらぼうなのかな?
涙は拭かないの?
飴はいらないの?
母は愉快そうに笑った。
『そうよね……。じゃあ、ちょっと“特別”にしようかな』
母が作ったてるてる坊主は、ハンカチの体、頭の中にはキャンディー数個。
まんまる頭じゃなくなった。でこぼこで変な感じ。
でも、花柄だから目が無くても顔が怖くないし、洋服も可愛い。
器用な母は、
『お友達が濡れないように早く泣きやまなくっちゃ! と神様が思うかもね』
と、折り紙で傘も作った。
私は大満足で窓辺を見上げて。
これで大丈夫!
神様もすぐ元気になって、涙が止まるよ!
✽
このてるてる坊主は、そんな思い出の品。
さすがに中の飴は……ねぇ……?
開けてみた。
やっぱり。新しいキャンディー数個に変わっている。
――缶の中にあった封筒と新しいハンカチ。
便箋には、見覚えある母の字で「大丈夫」と書いてあった。
「あ……」
“大丈夫。すぐに晴れます。”
ひとり上京して暮らす私を案じてくれたのか、あるいは、色々と行き詰っている事が母にはお見通しなのか……
母の字に涙が溢れる。
折り紙の傘は、どうやって作ったんだろう。
閉じた傘だ。
古いてるてる坊主と折り紙傘を机に飾って、私は涙を拭く。
大丈夫。
雨は必ず止む。
その後は、きっと晴れ。
だから私は……また頑張れる。
キャンディーをひとつ口に入れたら、心がふわりとあたたかく、軽くなった。