綾瀬家には小さな棚田が何枚かあって、しかもうねりのある坂を越えなければ田圃の見回りなんぞは出来なかったから、舅から引き継いだC50で水やら草取りやらで乗り回していた。
手入れの合間、一息ついていると、風がスッと抜けてゆく。
どうやら風抜けの良いところであったらしく、こうしたところも気に入っていたようであったらしい。
たまに湘南から娘の花世が盆に帰って来たりはするのだが、
「もうみんないないんだし、気にしないで松山に戻るなり、私と一緒に藤沢に来るなりすればいいのに…」
などと、シングルマザーの花世なんかは幼い娘の観海と一緒に過ごしながらも言ってみたりするのであるが、
「まぁ、住めば都って言うじゃない」
と、善子は気に留める様子すらなかった。