一台のバイクをカスタムする──まるで絵画か彫刻でも仕上げてゆくような作業に近い話なのだが、それにはどうやら方向性が要るものであるらしい。
専門学校へ通うこととなった松浦希は、まずクラッチペダルをさばくときに爪先が引っかかるから──という単純な理由で、レッグカバーをカットタイプに変えた。
もともと水泳をしたりしていたので、立ちゴケこそしなかったが、シフトペダルをさばきながらブレーキを踏んだり、ときにはウィンカーをつけたり消したり…なかなか忙しい運転に、はじめは希も戸惑ったが、次第に慣れてくると、
「やっぱりバイクは鉄だよね」
などと、いっぱしなことを言うようになった。