穣の夜中の電話の件も忘れかけた数ヶ月後の晴れた日曜日、C90と呼ばれているカスタムカブに打ち乗って──という表現が似つかわしいのであるが──三時間ばかり国道を転がして、翔平は地元へ帰ってみた。
夕海の黒澤家の連絡先は知っていたので、出発する前にお参りの旨だけ伝え、到着すると電話を入れた。
「わざわざ川崎から、バイクで?」
夕海の母親は、ひさびさに顔を見た娘のかつてのクラスメートを、驚きながらも明るく迎えてくれた。
「時間がなかなか取れなくて、顔も出せずすみません」
「駒木根くんは上京したから、多分来られないんじゃないかって話があったばっかりだったんですよ」
夕海のつながりから、恐らく話したのは今は役所にいる仲の良かった佐藤千夏あたりであろう。
「今日はたまたま休みなんですけど、お参りが済んだら帰らなきゃならなくて」
それでも片道で三時間ばかりかけて来てくれたのが、遺族にすればありがたかったらしかった。