目が冴えてしまった深夜二時、カスタムカブを駈って高台まで転がすと、行き交う車や夜景を見て、小一時間ほどぼんやりしているうちに、次第に闇に包まれていた空が明るみを取り戻してくる。

 高台からははるかに海が見渡せて、南大也(だいや)は気持ちが鎮まると、そのまま帰宅するか仕事へ向かうか──というのが気分転換になっていた。

 その日もそのまま帰るつもりであったのだが、このときはどうして来たのか分からなかったが、ポツンと女が佇んでいて、

「…どうも」

 と会釈をしたが、何とも要領を得ない。

「…Do you speak english?」

 見た目からアジア系の外国人であることは察せられた。

「What happened?」

 少しだけ英語の話せた大也は訊いてみた。

 要約すると、彼女は夜景を見に来たのだが、唯一の足である自転車を盗まれてしまい、日本語もままならなかったために、途方に暮れていたらしかった。