ところが。

 どうにも翔平は乗り気がしない。

 そもそも郷里にはほとんどよい思い出もなかったので、大学へ進むのを契機に地元を離れ、今は川崎に住まっている。

「みんな会いたがってるぞ」

 穣は言うのだが、翔平は言を左右にして煮え切らない。

「お前なぁ…元カノの黒澤が亡くなったんだから、戻ってきて線香でもあげてやれよ」

 そんなことを言われようが、戻りたくないものは戻りたくない。

「とりあえず、仕事が落ち着いたら考える」

 翔平は具体的な結論を出さないまま、電話を切った。