通勤の足に──と高坂華子が原付を買おうとした際の話である。
たまたま駅前通りのバイク屋にベスパ50がディスプレイされてあるのを、バスの窓越しから見たのがきっかけであったのだが、
「ベスパねぇ…うーん」
昼休みにスマートフォンで調べていたところに、営業部にいた渡邊皓という先輩がやってきて言うのである。
「うちの旦那、こんなの乗ってるよ」
見せてもらった写真には、可愛くオールペンされたショッキングピンクの郵政カブが写っていた。
「旦那もベスパと悩んで最終的にはこっちに決めたんだけど、可愛らしくカスタマイズ出来そうだから決めたんだってさ」
それで少し心が揺らいだのか、華子はカスタムカブを調べて見たのである。