まさか、友人である猫人の恋仲が。自分の恋仲と先輩後輩の関係であったのが、隆輝にとっては驚きだった。
火坑も人が悪いわけではないのだが、桂那をこの店に連れてきたのも随分と前だ。二年前の、彼女の就職祝いに隆輝が連れてきて以来だから。
まったく来れなかったわけではないが、隆輝自身が人間に化けて、相楽隆仁と言うパティシエの一人としての仕事が忙しくなり。
夜もなかなか桂那に合わせられなかった。今日は有給休暇が取れたので、平日なのにこの時間に来れたのだ。
だが、不可思議に思うことがひとつあった。
火坑の恋仲になった女性、湖沼美兎からは。隆輝が勤めてる店に来る時には感じなかった、霊力以上に妖力が膨れ上がっているように見えたのだ。
座敷童子の真穂が憑いているのにも気づかないくらい、隆輝も妖として決して短い生を送ってきたわけではないのに。
何か、特別な加護を得たのだろうか。桂那と美兎が話に盛り上がっている最中、隆輝はこっそり火坑に話しかけた。
「ねえ、火坑君。うちの店に来る時はほとんど感じなかったけど、彼女何者? 真穂様や君の加護以上になんか凄い力を感じるんだけど?」
「ふふ。覚の御大はご存知ですか?」
「御大? うん、サンタんとこと同じようにうちの店に時々来るけど?」
まさか、と思ったら、火坑は得意の涼しい笑顔になったのだった。
「先日、こちらにいらっしゃっいましてね? 年明けにまたお会い出来るんですが。美兎さんは彼の御方のご子孫なんですよ」
「御大の!?」
「ちょっと、隆君。声でかい」
「ど、どうかしたんですか?」
「いえ。美兎さんのご先祖様のお話を」
「湖沼ちゃんの、ご先祖?」
「え……と。だいぶ昔らしいんですが、私のご先祖様に妖……妖怪さんがいらっしゃったようで」
「あ。だからこんなにも可愛いの!?」
「可愛くないです!!?」
たしかに、人間に比べればいくらか美醜の差はあるかもしれないが。あの御人の子孫と言われば、霊力などは納得出来た。
そう思っていたら、手土産を持ってきたことを思い出して火坑に紙袋を渡したのだった。
「これ、うちの店の新作。火坑君はきっと好きだと思うよ?」
「隆輝君の手製ですか。いつも美兎さん達と美味しくいただいています」
「湖沼さんが火坑君の恋人なら、もっと大体的にお祝いしたのに」
時々でも、手製の焼き菓子を買う相手が火坑であるのなら、もっと気を遣ったのに。だが、二人が付き合い出したのはまだ一ヶ月くらいらしいし、それ以前に隆輝が赤鬼だと知られてもいけない。
これまでの人間達とは違い、今の人間達は勘が鈍いのに線引きが早い。
だから、隆輝も今の職場が気に入っているので辞めたくはないのだ。
「ふふ。開けても?」
「どうぞどうぞ」
その間に、少し喉が渇いたので温くなった熱燗をひと口。だいぶ冷めたが、いい味わいで鍋に残ってた具材の合うこと。
火坑が包みを開ければ、紙箱の中身は抹茶とホワイトチョコの特製フィナンシェのご登場だ。
「これは!」
「わぁ!? フィナンシェだったんですね!?」
「よかったら、湖沼さんや真穂様もどうぞ」
『わーい!』
「あら、甘過ぎなくて人気の……隆君、わざわざ取り置きしたの?」
「うん。作ったのは俺だし、火坑君甘過ぎるの得意じゃないからさ?」
「わざわざありがとうございます」
では、と真穂や美兎にも個包装してあるフィナンシェを差し出して。
その間に、わざわざ手製でコーヒーを淹れてくれたのだった。
「ほんと!! 抹茶の苦味とホワイトチョコで甘過ぎないです!?」
「バターもいい仕事してるわね? 美味しいわよ?」
「ふふ。俺が言うのもなんだけど、お粗末様」
「大将ー、俺と花菜帰るよ!」
「おや、コーヒーが出来たんですが」
「また飲みに来る!」
「では、せっかくですし。こちらのお菓子を」
席を譲ってくれた妖にまで配るとは、相変わらず律儀な性格だ。
だからこそ、この店は居心地がいい。
結局、隆輝もひとつ食べることになり、コーヒーと一緒に口に入れたら。酒と肴とはまた違うが、幸せの循環が訪れたのだった。
火坑も人が悪いわけではないのだが、桂那をこの店に連れてきたのも随分と前だ。二年前の、彼女の就職祝いに隆輝が連れてきて以来だから。
まったく来れなかったわけではないが、隆輝自身が人間に化けて、相楽隆仁と言うパティシエの一人としての仕事が忙しくなり。
夜もなかなか桂那に合わせられなかった。今日は有給休暇が取れたので、平日なのにこの時間に来れたのだ。
だが、不可思議に思うことがひとつあった。
火坑の恋仲になった女性、湖沼美兎からは。隆輝が勤めてる店に来る時には感じなかった、霊力以上に妖力が膨れ上がっているように見えたのだ。
座敷童子の真穂が憑いているのにも気づかないくらい、隆輝も妖として決して短い生を送ってきたわけではないのに。
何か、特別な加護を得たのだろうか。桂那と美兎が話に盛り上がっている最中、隆輝はこっそり火坑に話しかけた。
「ねえ、火坑君。うちの店に来る時はほとんど感じなかったけど、彼女何者? 真穂様や君の加護以上になんか凄い力を感じるんだけど?」
「ふふ。覚の御大はご存知ですか?」
「御大? うん、サンタんとこと同じようにうちの店に時々来るけど?」
まさか、と思ったら、火坑は得意の涼しい笑顔になったのだった。
「先日、こちらにいらっしゃっいましてね? 年明けにまたお会い出来るんですが。美兎さんは彼の御方のご子孫なんですよ」
「御大の!?」
「ちょっと、隆君。声でかい」
「ど、どうかしたんですか?」
「いえ。美兎さんのご先祖様のお話を」
「湖沼ちゃんの、ご先祖?」
「え……と。だいぶ昔らしいんですが、私のご先祖様に妖……妖怪さんがいらっしゃったようで」
「あ。だからこんなにも可愛いの!?」
「可愛くないです!!?」
たしかに、人間に比べればいくらか美醜の差はあるかもしれないが。あの御人の子孫と言われば、霊力などは納得出来た。
そう思っていたら、手土産を持ってきたことを思い出して火坑に紙袋を渡したのだった。
「これ、うちの店の新作。火坑君はきっと好きだと思うよ?」
「隆輝君の手製ですか。いつも美兎さん達と美味しくいただいています」
「湖沼さんが火坑君の恋人なら、もっと大体的にお祝いしたのに」
時々でも、手製の焼き菓子を買う相手が火坑であるのなら、もっと気を遣ったのに。だが、二人が付き合い出したのはまだ一ヶ月くらいらしいし、それ以前に隆輝が赤鬼だと知られてもいけない。
これまでの人間達とは違い、今の人間達は勘が鈍いのに線引きが早い。
だから、隆輝も今の職場が気に入っているので辞めたくはないのだ。
「ふふ。開けても?」
「どうぞどうぞ」
その間に、少し喉が渇いたので温くなった熱燗をひと口。だいぶ冷めたが、いい味わいで鍋に残ってた具材の合うこと。
火坑が包みを開ければ、紙箱の中身は抹茶とホワイトチョコの特製フィナンシェのご登場だ。
「これは!」
「わぁ!? フィナンシェだったんですね!?」
「よかったら、湖沼さんや真穂様もどうぞ」
『わーい!』
「あら、甘過ぎなくて人気の……隆君、わざわざ取り置きしたの?」
「うん。作ったのは俺だし、火坑君甘過ぎるの得意じゃないからさ?」
「わざわざありがとうございます」
では、と真穂や美兎にも個包装してあるフィナンシェを差し出して。
その間に、わざわざ手製でコーヒーを淹れてくれたのだった。
「ほんと!! 抹茶の苦味とホワイトチョコで甘過ぎないです!?」
「バターもいい仕事してるわね? 美味しいわよ?」
「ふふ。俺が言うのもなんだけど、お粗末様」
「大将ー、俺と花菜帰るよ!」
「おや、コーヒーが出来たんですが」
「また飲みに来る!」
「では、せっかくですし。こちらのお菓子を」
席を譲ってくれた妖にまで配るとは、相変わらず律儀な性格だ。
だからこそ、この店は居心地がいい。
結局、隆輝もひとつ食べることになり、コーヒーと一緒に口に入れたら。酒と肴とはまた違うが、幸せの循環が訪れたのだった。