楽しかった。
妖達と出会ってから、本当に楽しい日々ばかりだ。
まさか、自分のご先祖までもが妖で健在しているとは思いもよらなかったけども。
恋人の火坑が営む小料理屋楽庵で、大いに祖先の空木やサンタクロースと飲み食いしたら。
守護である座敷童子の真穂も帰ると言って退散してくれて。
今、楽庵には美兎と火坑の二人きりである。火坑はコーヒーを淹れるのにわざわざ豆をミルで挽いていたのだった。
「『かごめ』の季伯さんよりは劣りますが」
「火坑さんのだから、いいんです」
「ふふ、ありがとうございます」
そして、以前の初デートで一応クリスマスの早祝いはしたとは言え。
クリスマス本番と重なった今日、改めてお祝い出来るのがとても嬉しい。会社の先輩、沓木に教わって作ったブッシュドノエルはうまく出来たはず。
コーヒーを淹れてから、切り分ける前に火坑が箱から出したのだった。そして、猫顔の笑みが一旦停止のように見えたのだが。
「……火坑さん?」
何か食べれないものでもあったのだろうか、と思ったが。美兎が声をかければ、はっとわかりやすい感じに正気に戻ったのだった。
「! すみません……見惚れていました」
「え、ええ? 初心者が作ったケーキですけど」
「とんでもありません。一生懸命、僕やご自身のために作ったケーキです。初心者とは言え、充分凄いですよ?」
「あ、ありがとうございます。会社の……いつもマカロンを買って来るお店の、パティシエさんが彼氏さんの先輩に。教わったんです。甘さも控えめにして、主にビターチョコを使いました」
「それはそれは! きっと、いえ、絶対美味しいですね!」
「ふふ。コーヒーが冷める前にいただきましょう?」
「ええ」
そして、火坑が丁寧に切り分けてくれたブッシュドノエルの中身は。
生クリームが使ってるが、出来るだけビターテイストに抑えてみて。コーヒーとは絶対相性がいい味にしたのだ。練習で沓木に味見してもらった時もお墨付きがもらっているし、美兎が本番で作ったこれも味見はきちんとした。
料理全般に言えることだが、味見はこまめに。
沓木と言うか、沓木の彼氏がよく言う言葉だそうだが。たしかに、それはそうだと美兎も作ってみて納得出来た。
隣に座った火坑が、丁寧にフォークでひと口すくい。まるで宝石のように眺めてから、ゆっくりと口に入れてくれた。
反応が気になって、食べずに待っていると猫顔の彼の表情が輝いたように見えた。
「ど、どうですか?」
「美味しいですよ! ビターチョコの風味が強く、甘過ぎず僕好みです! クリームも丁寧に泡立てたのがわかるくらい滑らかです!」
「そ、そこまで大袈裟なものじゃないですけど……」
「いえいえ。謙遜なさることはありませんよ?」
ふふ、と涼しげに笑うのだから余計に美兎の頬に熱が上がりそうだった。
真冬なのに、エアコン以外で少し熱く感じたので。火照りを誤魔化すように、美兎もケーキをひと口頬張る。たしかに、沓木に習った通りに美味しく出来ていた。
「美味しい」
「美兎さんの気持ちも籠もっているからですよ。料理には、食べて欲しい相手への思いが素直に出やすいんです」
「そうなんですか?」
「はい。僕は美兎さんはいらっしゃった時は、いつも美兎さんを想って作らせていただいています」
「も、もぅ、火坑さん!」
恥ずかしくて顔を覆っていると、一瞬風が吹いたので誰かが来たのかと思えば。
手を外したら、人間の姿の火坑が目の前にいた。
このタイミングでそうなった、となると彼の行動はひとつ。
美兎が手を離した隙をついて、美兎の顎に手を添えて。軽く、ほんの軽く美兎の唇に自分のを重ねたのだった。
「……美兎さんの唇はクリーム以上に甘いですね?」
「……もぅ」
キスするタイミングは、まだ二度目ではあるけれど。いつも予告がない。
食事などは美兎を優先してくれるのに、じゃれ合う時だけは火坑の強引さが際立つ。
だが、嫌だとは思わないのだ。
「さて。ゆっくり食べましょう。手作りのケーキですから、賞味期限は早いですし」
「けど。火坑さん甘過ぎないのがお好きでも、ずっとは甘くなりますよ?」
「ふふ。味変とまではいきませんが、少々紅茶にも手を伸ばしたんです。次のお供は、ロイヤルミルクティーにしませんか?」
「! お付き合いします!」
そして、二人でブッシュドノエルを平らげるまで。ゆっくりお互いのことを話しながら、色んなお茶などを供にしたのだった。
妖達と出会ってから、本当に楽しい日々ばかりだ。
まさか、自分のご先祖までもが妖で健在しているとは思いもよらなかったけども。
恋人の火坑が営む小料理屋楽庵で、大いに祖先の空木やサンタクロースと飲み食いしたら。
守護である座敷童子の真穂も帰ると言って退散してくれて。
今、楽庵には美兎と火坑の二人きりである。火坑はコーヒーを淹れるのにわざわざ豆をミルで挽いていたのだった。
「『かごめ』の季伯さんよりは劣りますが」
「火坑さんのだから、いいんです」
「ふふ、ありがとうございます」
そして、以前の初デートで一応クリスマスの早祝いはしたとは言え。
クリスマス本番と重なった今日、改めてお祝い出来るのがとても嬉しい。会社の先輩、沓木に教わって作ったブッシュドノエルはうまく出来たはず。
コーヒーを淹れてから、切り分ける前に火坑が箱から出したのだった。そして、猫顔の笑みが一旦停止のように見えたのだが。
「……火坑さん?」
何か食べれないものでもあったのだろうか、と思ったが。美兎が声をかければ、はっとわかりやすい感じに正気に戻ったのだった。
「! すみません……見惚れていました」
「え、ええ? 初心者が作ったケーキですけど」
「とんでもありません。一生懸命、僕やご自身のために作ったケーキです。初心者とは言え、充分凄いですよ?」
「あ、ありがとうございます。会社の……いつもマカロンを買って来るお店の、パティシエさんが彼氏さんの先輩に。教わったんです。甘さも控えめにして、主にビターチョコを使いました」
「それはそれは! きっと、いえ、絶対美味しいですね!」
「ふふ。コーヒーが冷める前にいただきましょう?」
「ええ」
そして、火坑が丁寧に切り分けてくれたブッシュドノエルの中身は。
生クリームが使ってるが、出来るだけビターテイストに抑えてみて。コーヒーとは絶対相性がいい味にしたのだ。練習で沓木に味見してもらった時もお墨付きがもらっているし、美兎が本番で作ったこれも味見はきちんとした。
料理全般に言えることだが、味見はこまめに。
沓木と言うか、沓木の彼氏がよく言う言葉だそうだが。たしかに、それはそうだと美兎も作ってみて納得出来た。
隣に座った火坑が、丁寧にフォークでひと口すくい。まるで宝石のように眺めてから、ゆっくりと口に入れてくれた。
反応が気になって、食べずに待っていると猫顔の彼の表情が輝いたように見えた。
「ど、どうですか?」
「美味しいですよ! ビターチョコの風味が強く、甘過ぎず僕好みです! クリームも丁寧に泡立てたのがわかるくらい滑らかです!」
「そ、そこまで大袈裟なものじゃないですけど……」
「いえいえ。謙遜なさることはありませんよ?」
ふふ、と涼しげに笑うのだから余計に美兎の頬に熱が上がりそうだった。
真冬なのに、エアコン以外で少し熱く感じたので。火照りを誤魔化すように、美兎もケーキをひと口頬張る。たしかに、沓木に習った通りに美味しく出来ていた。
「美味しい」
「美兎さんの気持ちも籠もっているからですよ。料理には、食べて欲しい相手への思いが素直に出やすいんです」
「そうなんですか?」
「はい。僕は美兎さんはいらっしゃった時は、いつも美兎さんを想って作らせていただいています」
「も、もぅ、火坑さん!」
恥ずかしくて顔を覆っていると、一瞬風が吹いたので誰かが来たのかと思えば。
手を外したら、人間の姿の火坑が目の前にいた。
このタイミングでそうなった、となると彼の行動はひとつ。
美兎が手を離した隙をついて、美兎の顎に手を添えて。軽く、ほんの軽く美兎の唇に自分のを重ねたのだった。
「……美兎さんの唇はクリーム以上に甘いですね?」
「……もぅ」
キスするタイミングは、まだ二度目ではあるけれど。いつも予告がない。
食事などは美兎を優先してくれるのに、じゃれ合う時だけは火坑の強引さが際立つ。
だが、嫌だとは思わないのだ。
「さて。ゆっくり食べましょう。手作りのケーキですから、賞味期限は早いですし」
「けど。火坑さん甘過ぎないのがお好きでも、ずっとは甘くなりますよ?」
「ふふ。味変とまではいきませんが、少々紅茶にも手を伸ばしたんです。次のお供は、ロイヤルミルクティーにしませんか?」
「! お付き合いします!」
そして、二人でブッシュドノエルを平らげるまで。ゆっくりお互いのことを話しながら、色んなお茶などを供にしたのだった。