本当に。

 空木(うつぎ)()である美樹(みき)と瓜二つだ。実際に会うのは初めてだが、本当に愛しいあの人とそっくり過ぎた。

 それだけ、自分達のところから巣立っていった我が子達が子を成していった結果だろう。何代目かまでは、さすがに空木でもわからないが。美樹が今も生きているのだから、相当な月日を重ねた筈だ。

 彼女とも会いたいと、子孫である美兎(みう)とは話が弾んだ。


「今の時代は、随分と便利になってきましたからね。美樹も、料理の幅が広がったと常日頃喜んでいます」
「お料理上手なんですか?」
「そうですね。温かみのある料理を、私に振る舞おうと日々頑張ってくれていますよ?」
「わあ!」
「僕も負けられませんね?」


 そして、美兎と恋仲になった、元地獄の補佐官であった猫人の火坑(かきょう)。空木より、はるかに妖力が高く、はるかに己よりも生活力がある。

 将来、美樹と空木のように結ばれれば。美兎は妖の界隈で生活することになってしまうだろうが。

 きっと、大丈夫だ。

 自分達のように、時代の波にいい感じに揉まれても、なんとか生活出来るだろう。美兎が火坑と本当の意味でいつ結ばれるかまでは、知るのは野暮かもしれないが。

 美兎が、それまで人間界をきちんと謳歌してくれれば、空木も本望だ。

 志半ばで、命を失った子孫は。かつての大戦で何人もいたから。

 今の時代は、そう言う心配はなくとも、わからない。この国、と言うより空木や美兎達がいる県では。

 自動車や交通関連の事故が、日本一と言われるくらいに嫌な称号が付いてしまっているのだから。なので、絶対とは言い切れない。

 守護に、界隈の主角でもある座敷童子の真穂(まほ)の加護があれど。


『大丈夫よ?』


 (さとり)特有の能力、表面上の心情などを読める能力が発動した。しかも、意図的に。

 真穂がこちらを向かずに、サンタクロースと話しているのに告げてきたのだ。


『大丈夫。真穂もだけど、火坑もいるもの。あんただって、出向いてきたわけだから。自分の子孫のために、色々霊力を強化させたんじゃない? だったら、絶対大丈夫』


 それだけ言うと、もう語りかけてはこなかったが。空木は彼女の豪胆な性格にはほっとするしかなかった。

 考え過ぎもよくない、と美樹にもよく言われているのだから。


「さて。本日はクリスマスパーティーですけれど。サンタクロースさん向けに日本の料理を作ってみました。肉巻きおにぎりです!」
「おお!? 甘辛い日本の味付けは、儂好みじゃ!!」
「美味しそー!」
「ねー?」
「これはこれは、実に美味しそうですね?」


 おにぎりにさらに肉を巻くなど、今の時代は贅沢極まりない。

 先に出来ていた、フライドチキンや豚の角煮も絶品ではあったが。

 このおにぎりはどのような味わいか。

 一人につき二個ずつ、器に盛られたのを受け取り。熱燗で軽く唇を湿らせてから、箸で持ち上げる。

 そこまで重量感はないが、薄切りにした豚肉をこれでもかと巻き付けて、醤油や砂糖の甘辛い匂いに加えてニンニクの香ばしい匂い。

 これは、絶対美味だと確信して、空木はひと口頬張る。

 途端、熱燗が欲しくなって、よく噛んで飲み込んでから少し温くなった熱燗を流し込む。

 幸せの循環が訪れた。


「おいひー!」
「肉と米のコラボ、最強です!」
「これはこれは! ビールが進むわい!」
御大(おんたい)、何杯目?」
「真穂よ。儂とて、昨日までにたくさん仕事をしたのじゃぞ!?」
「はいはい」


 これは、美樹にも食べさせてやりたいと思った。


「火坑さん」
「はい?」
「持ち帰りにいただきたいのですが。代金はきちんと払いますので」
「わかりました。よろしければ、レシピもお渡ししましょうか?」
「良いのですか?」
「ええ。然程難しい家庭料理ではありませんので」


 本当に、いい妖だ。

 美兎の心眼にかなった相手だ。これほど良い縁は、空木も現世で長く生きているが、ほとんど出会ったことがない。

 なら、とレシピである紙を受け取ってから、相棒である琵琶を手にした。


「僭越ながら。余興になるかはわかりませんが、一曲弾かせてくださいませんか?」
「おお!」
「空木さんの演奏ですか!」
「良い良い! いいものが見られるぞ?」
「お願いいたします」
「では、一献」


 良い縁と繋がる未来であって欲しい。

 この先の、その先々まで。

 この二人が、己と同じかそれ以上に生を紡ぐのであれば。

 空木も、また手を貸そうと思うくらいだった。

 それから演奏は、一曲ならず数曲まで紡ぎ上げて。美兎と火坑が二人きりになる夕方まで続いたのだった。