クリスマスイヴ当日。

 怒涛のクリスマスイベントに幕を下ろすことが出来たのだった。


「お疲れ様」
「お疲れ様です〜」
「です……」


 新人として、一年目のクリスマスイベント。

 大手老舗のデパートの飾りつけもだが、終わってからの撤収作業までデザイナー陣も出向くので。

 深夜十時から始めて、夜中の三時。

 見事、美兎(みう)達クリエイティブチームはやり終えたのだ。作業が終わってから、沓木(くつき)に言われた休憩所でやっと息を吐くことが出来。彼女や他の先輩から甘いカフェモカの差し入れを受けた。

 作業は終わったが、帰宅準備もあるのでココアではなくコーヒーのアレンジメニューと言うわけだ。


湖沼(こぬま)ちゃんは明日がある意味本番なんでしょ? 帰ったら、昼までゆっくりお休みなさいな?」
「はい……頑張ります」


 つい先日、沓木と田城で作ったブッシュドノエルは大変美味しく出来た。実は昨日の夜中に、明日、いや今日のために用意はしたのだ。

 沓木のアドバイス通り、素敵に美味しそうに出来上がったのだ。LIMEで今日の夕方に会えないか聞いておいたら、火坑(かきょう)の方からもお誘いがあったので嬉しかった。

 きっと、もしや、簡易的なクリスマスパーティーはしたけど。もっと大勢で催すために。

 そんな予感がしているので、美兎は撤収組全員が解散となってから経費でタクシーを使って帰宅した。これは毎年会社で経費として扱われるのでありがたいことだ。

 そして、帰宅して簡単にシャワーを浴びてから就寝したのだが。

 寝たはずなのに、美兎は真っ暗な空間にひとりで立っていた。


「……何これ?」



 夢にしては不思議な感覚。手足の感覚もあるし、頭も冴えている。なのに、どうやって来たか、まるで覚えていない。

 なんの冗談、などと考えていたら。遠くから、微かだが歌声が聞こえてきた。


「……小説とか映画だったら、お決まりの展開かなあ?」


 そう言った映画関連も就職前後であまり見なくなってしまったが、美兎自身が映画になりそうな奇跡的な出会いをしている。

 であれば、これはもしかして、その妖関連だろうか。守護である座敷童子の真穂(まほ)もいないのに何故、と思うところはあるが。

 行くしかない、と美兎は歩き出した。



【鳴り響きー


 踊れー、や踊りゃんせー


 はやせー、はやりゃんせー


 鳴き唄よ、はや歌えー


 我はー、(ぬし)の祖じゃせー】




 聞いたことのない、拍子に歌詞だ。

 だが、不思議と耳には合っている気がする。

 声の主は、男性だが今まで出会った彼らの誰とも違う。

 火坑でもない。

 では、誰だと思いながら歩いていると、歌声がどんどん大きくなり、楽器の音色まで聞こえてきた。

 弦楽器らしいのは分かったが。


「あ……」



 ようやく、到着した時に見えた人影は。

 地獄の補佐官である、火坑の先輩でたしか亜条(あじょう)によく似た。

 薄い緑色の髪が特徴的な、優しい面立ちの男性だった。


『……来たかい、()よ』
「……あなたは?」
『ふふ。まさか、ここまで覚醒するとはね? 私に見覚えがあるようにしているのは、君がそう思っているからだよ』
「……どう言うことですか?」
『なに。期は熟した。私の正体も、君が何故今年になってから妖と関わり出したのかも、わかるだろう。起きてから、あの子にお聞き? きっと答えてくれるさ』
「あの子?」


 守護についてくれている真穂のことだろうか、と聞けば、彼は首を縦に振ってくれた。


『これからも素敵な時をお過ごし? 私もすぐに会いに行こう』
「あの、あなたは」
『もう少し楽しみにしておくれ?』


 そうして、彼が楽器の弦を弾いた途端。

 美兎は夢から覚めて、枕元に置いていたスマホからはアラーム音が聞こえてきたのだった。


「おっそよー、美兎?」


 起きたら、本当に真穂が部屋に居たので。美兎は包み隠さず夢の内容を彼女に話したのだった。