沓木の家に到着して、手洗いうがいをしっかりとやらされてから材料と一緒に買った簡易エプロンを、ブラウスの上から身につける。
今日作るクリスマスケーキは、普通の苺ショートではなくブッシュドノエルと言うロールケーキらしい。
「たくさん食べられなくても。見た目も可愛いやつなら、このケーキね? 湖沼ちゃんならぺろっと食べられそうだけど」
「……はい」
デザイナーは通常のデスクワークで何時間もPCに張り付くので、飲み物のだが軽食も基本的に甘いものを選んでしまう。そのために、経費の一部でコーヒーメーカーの隣にワンコインおやつが常設されているくらいだ。
だから、美兎の軽食事情もバレバレ。ワンコインだから、ついつい買ってしまうのだ。だが、その分カロリーを消費している、はず。
それはさておき、甘過ぎる味が少し苦手な火坑にも食べやすいビターテイストにしてくれるそうだ。それなら、彼も少しは食べられるかもしれない。
「田城ちゃんも彼氏いないからって。ついてきたからには労働しなさいよ?」
「うぃっす! 何すればいいんです〜?」
「そうね。今日は練習だし、メインは湖沼ちゃんだから……チョコをひたすらキッチンハサミで刻みながら、ボウルに入れて」
「ハサミでいいんですー?」
「あなたの場合、チョコの破片でうちのキッチンを無様に汚しかねないわ。勝手な想像だけど……あなた、自炊は?」
「……全然っす」
「ほらね? なら、慣れない包丁をいきなり使って汚されちゃ困るもの」
「うぃ……」
「沓木先輩、私は?」
「先に聞くけど。あなたの調理経験は……?」
「えーと……彼氏……香取響也さんのお店に行くようになってから、ちょっとずつは」
「お菓子作りは?」
「……残念ながら、家庭科経験程度です」
「なるほどね? とりあえず覚えておいて? 卵は常温……冷蔵庫で冷やしたのをいきなり使っちゃダメよ? 生地の焼き上がりに影響が出るから」
「はい」
仕事ならメモ帳だが、ここはプライベートなのでスマホのメモ帳に書き込んだ。沓木も何も言わないので。次に計量だと田城がハサミで必死にチョコを切ってる下の扉を開けて、ボウルや測りを取り出した。
「粉類はザルとかで振るうのはわかるわね?」
「聞いたことは」
「だまのまま混ぜると、そのまま焼いちゃったら粉の塊が残っちゃうのよ。あとはいい生地にさせるために。ココアと薄力粉を測って振るって」
美兎には、買ってきたばかりの常温の卵に砂糖を加えて割りほぐすところから。軽く泡が立つくらいまで泡立て器で混ぜたら、沓木がハンドミキサーを取り出してきた。
「最初からそれを使わないのは?」
「泡立ちすぎるからよ。早く泡立つのが正解とも一概に言えなくてね? 今からは、これを使って混ぜるんだけど」
その前に、と製菓用の温度計をボウルに入れた沓木は目盛りを見て満足そうに頷いた。
「?」
「卵が冷たいと、生地に影響が出る話はしたわよね?」
「はい」
「この時点で冷たかったら、レンジで10秒ほど加熱した方がいいわ。人肌より少し温かいくらいが理想なの。今日のは、一応大丈夫だけど」
「なるほど!」
「先輩〜、終わりましたー」
「じゃ、あなたは次はチョコの湯煎ね?……湯煎はわかるかしら?」
「直茹で?」
「阿呆!」
と漫才チックなやりとりはさておき。美兎の次の仕事は生地をハンドミキサーで混ぜていくこと。低速で、二分立ちになるくらいらしいが、少しさらさらした生地になればいいそうだ。
田城に湯煎のやり方をレクチャーしている沓木の横で、とりあえず混ぜていくのだった。
「あんれぇ? 先輩、ぶくぶくにお湯沸かすんじゃ?」
「それも一概にいいとは言えないわ。チョコの湯煎わね、プロでも難しいとされているのよ? パティシエでも毎回緊張するのはザラではないわ」
「先輩の彼氏さんの受け売りですか〜?」
「そうね。あの人もよく言っているわ」
ちなみに、沓木の彼氏は火坑も気に入っているマカロン専門店のパティシエだとか。まだ挨拶したことはないが、もし紹介があればお礼を言いたい。時々だけれど、手土産にあそこのマカロンや最近出たプチフィナンシェも火坑が気に入っているから。
「あの、沓木先輩。こんな感じですか?」
だいたいもったりしたソースのようになったので、沓木に確認してもらうともう少し、と言われてから次に粉類を入れるのだが。
「一気に入れずに、四、五回に分けてゴムベラで混ぜてね?」
「美味しい生地のためですよね?」
「そうよ。最初は切るように混ぜて……だいたい混ざったら今度はツヤが出るまで混ぜる」
その次に、レンジで温めたバターと牛乳に生地を少量加えて混ぜて。それをボウルに入れてからさらに混ぜてツヤなどを出すらしい。
スポンジケーキではないのに、難しいと思った。
「大変ですね!」
「これをあの人とか、他のパティシエは毎日やっているもの。有り難みを感じるわ」
「作れる先輩も凄いです!」
「ありがとう」
「先輩〜、チョコほとんど溶けてきましたー」
「じゃ、軽く冷ますついでにひと息つけましょう?」
美兎達の方も、あらかじめ用意しておいた底がある天板にクッキングシートを敷いたものに、生地を流し込んで。
これまた予熱しておいたオーブンで焼くのだった。ロールケーキなので、途中で前後は入れ替えるが。ひとまず、コーヒーブレイクをするのだった。
今日作るクリスマスケーキは、普通の苺ショートではなくブッシュドノエルと言うロールケーキらしい。
「たくさん食べられなくても。見た目も可愛いやつなら、このケーキね? 湖沼ちゃんならぺろっと食べられそうだけど」
「……はい」
デザイナーは通常のデスクワークで何時間もPCに張り付くので、飲み物のだが軽食も基本的に甘いものを選んでしまう。そのために、経費の一部でコーヒーメーカーの隣にワンコインおやつが常設されているくらいだ。
だから、美兎の軽食事情もバレバレ。ワンコインだから、ついつい買ってしまうのだ。だが、その分カロリーを消費している、はず。
それはさておき、甘過ぎる味が少し苦手な火坑にも食べやすいビターテイストにしてくれるそうだ。それなら、彼も少しは食べられるかもしれない。
「田城ちゃんも彼氏いないからって。ついてきたからには労働しなさいよ?」
「うぃっす! 何すればいいんです〜?」
「そうね。今日は練習だし、メインは湖沼ちゃんだから……チョコをひたすらキッチンハサミで刻みながら、ボウルに入れて」
「ハサミでいいんですー?」
「あなたの場合、チョコの破片でうちのキッチンを無様に汚しかねないわ。勝手な想像だけど……あなた、自炊は?」
「……全然っす」
「ほらね? なら、慣れない包丁をいきなり使って汚されちゃ困るもの」
「うぃ……」
「沓木先輩、私は?」
「先に聞くけど。あなたの調理経験は……?」
「えーと……彼氏……香取響也さんのお店に行くようになってから、ちょっとずつは」
「お菓子作りは?」
「……残念ながら、家庭科経験程度です」
「なるほどね? とりあえず覚えておいて? 卵は常温……冷蔵庫で冷やしたのをいきなり使っちゃダメよ? 生地の焼き上がりに影響が出るから」
「はい」
仕事ならメモ帳だが、ここはプライベートなのでスマホのメモ帳に書き込んだ。沓木も何も言わないので。次に計量だと田城がハサミで必死にチョコを切ってる下の扉を開けて、ボウルや測りを取り出した。
「粉類はザルとかで振るうのはわかるわね?」
「聞いたことは」
「だまのまま混ぜると、そのまま焼いちゃったら粉の塊が残っちゃうのよ。あとはいい生地にさせるために。ココアと薄力粉を測って振るって」
美兎には、買ってきたばかりの常温の卵に砂糖を加えて割りほぐすところから。軽く泡が立つくらいまで泡立て器で混ぜたら、沓木がハンドミキサーを取り出してきた。
「最初からそれを使わないのは?」
「泡立ちすぎるからよ。早く泡立つのが正解とも一概に言えなくてね? 今からは、これを使って混ぜるんだけど」
その前に、と製菓用の温度計をボウルに入れた沓木は目盛りを見て満足そうに頷いた。
「?」
「卵が冷たいと、生地に影響が出る話はしたわよね?」
「はい」
「この時点で冷たかったら、レンジで10秒ほど加熱した方がいいわ。人肌より少し温かいくらいが理想なの。今日のは、一応大丈夫だけど」
「なるほど!」
「先輩〜、終わりましたー」
「じゃ、あなたは次はチョコの湯煎ね?……湯煎はわかるかしら?」
「直茹で?」
「阿呆!」
と漫才チックなやりとりはさておき。美兎の次の仕事は生地をハンドミキサーで混ぜていくこと。低速で、二分立ちになるくらいらしいが、少しさらさらした生地になればいいそうだ。
田城に湯煎のやり方をレクチャーしている沓木の横で、とりあえず混ぜていくのだった。
「あんれぇ? 先輩、ぶくぶくにお湯沸かすんじゃ?」
「それも一概にいいとは言えないわ。チョコの湯煎わね、プロでも難しいとされているのよ? パティシエでも毎回緊張するのはザラではないわ」
「先輩の彼氏さんの受け売りですか〜?」
「そうね。あの人もよく言っているわ」
ちなみに、沓木の彼氏は火坑も気に入っているマカロン専門店のパティシエだとか。まだ挨拶したことはないが、もし紹介があればお礼を言いたい。時々だけれど、手土産にあそこのマカロンや最近出たプチフィナンシェも火坑が気に入っているから。
「あの、沓木先輩。こんな感じですか?」
だいたいもったりしたソースのようになったので、沓木に確認してもらうともう少し、と言われてから次に粉類を入れるのだが。
「一気に入れずに、四、五回に分けてゴムベラで混ぜてね?」
「美味しい生地のためですよね?」
「そうよ。最初は切るように混ぜて……だいたい混ざったら今度はツヤが出るまで混ぜる」
その次に、レンジで温めたバターと牛乳に生地を少量加えて混ぜて。それをボウルに入れてからさらに混ぜてツヤなどを出すらしい。
スポンジケーキではないのに、難しいと思った。
「大変ですね!」
「これをあの人とか、他のパティシエは毎日やっているもの。有り難みを感じるわ」
「作れる先輩も凄いです!」
「ありがとう」
「先輩〜、チョコほとんど溶けてきましたー」
「じゃ、軽く冷ますついでにひと息つけましょう?」
美兎達の方も、あらかじめ用意しておいた底がある天板にクッキングシートを敷いたものに、生地を流し込んで。
これまた予熱しておいたオーブンで焼くのだった。ロールケーキなので、途中で前後は入れ替えるが。ひとまず、コーヒーブレイクをするのだった。