猫人である火坑は久しぶりに驚いたのだった。
「やほー!」
「……随分と久しぶりですねぇ?」
恋人、湖沼美兎の守護である座敷童子の真穂が連れて来たのは、外見は小柄な人間の老人。
だが、カウンターの席に着いてからその老人は座ったと同時に、空気を震わせて白、赤、黒が特徴のある人物に変化していった。
「御大……サンタクロースさんがいらっしゃるとは、随分と久しぶりですねえ?」
「ほっほ。旧い友人に頼まれてのお……」
「ご友人ですか?」
ホットおしぼりを出すと、サンタクロースは手を拭いた後に顔もゴシゴシと拭いたのだった。
「……君は気づいているかね? 君の恋人になった人間の女性……湖沼美兎さんには、普通の人間以外の血が流れていると」
「! もちろんです」
だが、本人も気付いていないし、守護についている真穂からも特に告げていない。なので、火坑も無闇に知ろうとしなかった。
けれど、この御大自ら動かれると言うことは。まだ現存している美兎の祖先である妖に何か頼まれたかもしれない。
「ほっほ。その祖先となった彼が……まさか、子孫までもが妖と結ばれたと知ったら、嬉しそうに儂に告げてきてね?」
「祖先……? 僕が伺っても」
「ふふ。本来なら君を含めて秘匿する予定でいたけれど。元冥府の役人だった君には最後まで隠せないじゃろうて。儂の判断で、君を引き込むことにしたんじゃ」
「御大のご判断で?」
「そうらしいわよ? あいつはあんた達揃ってサプライズにしたかったらしいけど、火坑には無理でしょ?」
「……祖先の妖についてお聞きしても?」
「ほっほ。まずは一杯いいかのお?」
「あ、申し訳ありません。ご注文はいかがなさいましょう?」
「儂は芋のお湯割り。料理は任せるかの?」
「真穂もー!」
「かしこまりました」
焦り過ぎていた。
恋人だから、美兎のことだからと。
元は人間でもなかった猫畜産でしかなかったのに、人間と隣接した次元に輪廻転生してからか、どうも人間味を持ってしまっている。
あれは、まだ妖として転生したばかりの、師匠だった霊夢にも言われたのだった。
『火坑は、食べる相手のことも考えてーんだな?』
拾われてまだ幾日も経っていない頃、黒豹の彼にそんなことを言われたのだ。
『食べる、相手のこと?』
『俺が料理してる間に、食器やらなんやら用意してくれただろ? 俺が教えたことだが、言わなくてもすぐに用意してくれてるって嬉しいもんだぜ? お前、料理人に興味あるっつってたな?』
『はい!』
もうちょい身体が育つまでは、簡単な手伝い程度は教えてやる。霊夢のその提案があってから、身体が育つまで。本当に色々手伝った。
その中で、彼からこうも言われたのだ。
『お前は……前の獄卒だった経験もあっから、人間達から『心の欠片』を受け取れる可能性が高いな?』
『師匠が……おっしゃってた、人間の魂の一部を賃金として受け取り……僕らの妖力とは違う、力の源。あと、価値によって売り上げに繋がるものだと』
『そう。だが、引き出せんのは妖でもごく一部。俺とか最近来た蘭とかだな? あとは、ほんの一部』
『僕に、出来るんでしょうか?』
『俺の言葉を信じろ。出来るって』
だからそれ以降。妖以外にも、時折人間の客も来訪してきたので、霊夢や転がり込んできた蘭霊の秘術を見てきた。
自分の店を持つまで、随分と時間はかかったが。錦の一角に店を持てたのは幸いだった。でなければ、美兎とも出会えなかったから。
思い出すのを中断させて、真穂とサンタクロースに注文の品を出してからスッポンの下処理をする。今日は残念ながら雄だが。
「ほっほ。日本に来るまで。珍味のスープや肉を食すことはなかったからのお。ここや、霊夢君の店で食すまで知らなかったのが、悔しいわい」
「とか言いつつ。御大の故郷とかでも変な珍味多いじゃない?」
「儂もあれは知らん。臭いもんを更に臭くするなど言語道断じゃ」
たしかに、北欧では何故か愛好家もいると言われている、シュールストレミングがあるのは謎だが。興味本位で触れてはいけない食材だと、火坑は思っている。
「で、火坑も巻き込んで……なら。このお店でやっぱりパーティーしちゃう?」
「うむ。今日あの子に確認したんじゃが、クリスマスの本番もイブもてんやわんやじゃからのお。せめて、次の日が休みじゃから、その日の夕方にでもと思っとるんじゃが」
「まだ僕との予定も決まっていませんので大丈夫ですよ? はい。まずは、スッポン肉の生姜醤油和えです。今日は雄なので、卵はないですが」
「儂に胆汁の水割りを」
「かしこまりました」
実は、美兎には日曜に予定がないと聞かれたのだが。その前日に、パーティーをするのならいいかもしれない。
パーティーに縁の薄かった彼女は、先日の楽養でのパーティーもとても楽しんでくれていたから。
が、その後にサンタクロースから聞かされた美兎の祖先については、さすがに驚きを隠せなかったが。
「やほー!」
「……随分と久しぶりですねぇ?」
恋人、湖沼美兎の守護である座敷童子の真穂が連れて来たのは、外見は小柄な人間の老人。
だが、カウンターの席に着いてからその老人は座ったと同時に、空気を震わせて白、赤、黒が特徴のある人物に変化していった。
「御大……サンタクロースさんがいらっしゃるとは、随分と久しぶりですねえ?」
「ほっほ。旧い友人に頼まれてのお……」
「ご友人ですか?」
ホットおしぼりを出すと、サンタクロースは手を拭いた後に顔もゴシゴシと拭いたのだった。
「……君は気づいているかね? 君の恋人になった人間の女性……湖沼美兎さんには、普通の人間以外の血が流れていると」
「! もちろんです」
だが、本人も気付いていないし、守護についている真穂からも特に告げていない。なので、火坑も無闇に知ろうとしなかった。
けれど、この御大自ら動かれると言うことは。まだ現存している美兎の祖先である妖に何か頼まれたかもしれない。
「ほっほ。その祖先となった彼が……まさか、子孫までもが妖と結ばれたと知ったら、嬉しそうに儂に告げてきてね?」
「祖先……? 僕が伺っても」
「ふふ。本来なら君を含めて秘匿する予定でいたけれど。元冥府の役人だった君には最後まで隠せないじゃろうて。儂の判断で、君を引き込むことにしたんじゃ」
「御大のご判断で?」
「そうらしいわよ? あいつはあんた達揃ってサプライズにしたかったらしいけど、火坑には無理でしょ?」
「……祖先の妖についてお聞きしても?」
「ほっほ。まずは一杯いいかのお?」
「あ、申し訳ありません。ご注文はいかがなさいましょう?」
「儂は芋のお湯割り。料理は任せるかの?」
「真穂もー!」
「かしこまりました」
焦り過ぎていた。
恋人だから、美兎のことだからと。
元は人間でもなかった猫畜産でしかなかったのに、人間と隣接した次元に輪廻転生してからか、どうも人間味を持ってしまっている。
あれは、まだ妖として転生したばかりの、師匠だった霊夢にも言われたのだった。
『火坑は、食べる相手のことも考えてーんだな?』
拾われてまだ幾日も経っていない頃、黒豹の彼にそんなことを言われたのだ。
『食べる、相手のこと?』
『俺が料理してる間に、食器やらなんやら用意してくれただろ? 俺が教えたことだが、言わなくてもすぐに用意してくれてるって嬉しいもんだぜ? お前、料理人に興味あるっつってたな?』
『はい!』
もうちょい身体が育つまでは、簡単な手伝い程度は教えてやる。霊夢のその提案があってから、身体が育つまで。本当に色々手伝った。
その中で、彼からこうも言われたのだ。
『お前は……前の獄卒だった経験もあっから、人間達から『心の欠片』を受け取れる可能性が高いな?』
『師匠が……おっしゃってた、人間の魂の一部を賃金として受け取り……僕らの妖力とは違う、力の源。あと、価値によって売り上げに繋がるものだと』
『そう。だが、引き出せんのは妖でもごく一部。俺とか最近来た蘭とかだな? あとは、ほんの一部』
『僕に、出来るんでしょうか?』
『俺の言葉を信じろ。出来るって』
だからそれ以降。妖以外にも、時折人間の客も来訪してきたので、霊夢や転がり込んできた蘭霊の秘術を見てきた。
自分の店を持つまで、随分と時間はかかったが。錦の一角に店を持てたのは幸いだった。でなければ、美兎とも出会えなかったから。
思い出すのを中断させて、真穂とサンタクロースに注文の品を出してからスッポンの下処理をする。今日は残念ながら雄だが。
「ほっほ。日本に来るまで。珍味のスープや肉を食すことはなかったからのお。ここや、霊夢君の店で食すまで知らなかったのが、悔しいわい」
「とか言いつつ。御大の故郷とかでも変な珍味多いじゃない?」
「儂もあれは知らん。臭いもんを更に臭くするなど言語道断じゃ」
たしかに、北欧では何故か愛好家もいると言われている、シュールストレミングがあるのは謎だが。興味本位で触れてはいけない食材だと、火坑は思っている。
「で、火坑も巻き込んで……なら。このお店でやっぱりパーティーしちゃう?」
「うむ。今日あの子に確認したんじゃが、クリスマスの本番もイブもてんやわんやじゃからのお。せめて、次の日が休みじゃから、その日の夕方にでもと思っとるんじゃが」
「まだ僕との予定も決まっていませんので大丈夫ですよ? はい。まずは、スッポン肉の生姜醤油和えです。今日は雄なので、卵はないですが」
「儂に胆汁の水割りを」
「かしこまりました」
実は、美兎には日曜に予定がないと聞かれたのだが。その前日に、パーティーをするのならいいかもしれない。
パーティーに縁の薄かった彼女は、先日の楽養でのパーティーもとても楽しんでくれていたから。
が、その後にサンタクロースから聞かされた美兎の祖先については、さすがに驚きを隠せなかったが。