まさか、いきなり聞かれるとは思わなかったが。
それだけ、美兎が火坑に興味を持ってくれていると思うと正直、嬉しかった。
ただでさえ、人間と妖の恋人関係と言う特異な関係であるのに。美兎は何も厭わずに火坑の話を真剣に聞いてくれていたから。
紗凪の提案で一時中断されたが、二人きりになったらもう少し掘り下げて話そうと決めた。将来の、翠雨と紗凪のように本当に番になるなどまだわからないが。
美兎の、嬉しいことになるのなら不安は多少でも押し除ける。火坑はそう決めた。
この縁も閻魔大王からの授かりものであるのならば遠慮する必要はない、と。
「響也さん! 行きましょう!」
美兎の嬉しそうな声に、火坑はハッと我に返った。
だが、考えていたことを悟られないように、得意の笑顔と恋人繋ぎの手を握り返すことで応えた。
「はい、行きましょう」
今は人間として、彼女の傍にいるのだから。人間らしく、もっと逢引きを楽しもうじゃないか。
元は猫畜生、今は猫の妖。
猫は、魚介類を多く好むとされているが。例に漏れなく、火坑もそうだ。だから、ではないが。育ての親でもある霊夢の生み出す料理には初回から随分と興味を持ったものだ。
けれど、今回のデートで名古屋港の水族館を選んだのは、火坑の個人的な主観だけではない。下準備は万全、美兎の食の好みはただの客だった時から少々把握はしている。
だから、錦の界隈にも協力をあおっているのだ。
「シャチって、おっきいですよね〜?」
そして、今は少し屋上に近い施設。イルカのショーや白イルカでお馴染みのベルーガとも隣接している、シャチの水槽の上部。
公開されている時間がちょうど合ったお陰で、サメ並みに巨大な魚類が飼育員に指示されながら、観客にパフォーマンスを見せてくれている。
シャチは肉食でも魚を主食にするのと、哺乳類であるアザラシやクジラ類を主食にするのと別れているらしいが。この水族館に生息するのはどうなのだろうか。
トレーニングを観覧している間に、美兎にこっそりと告げれば彼女は顔を輝かせたのだった。
「詳しいですね!」
「ふふ。普段から食材は主に魚類ですからね? と言っても彼らは哺乳類ですが」
「見た目はサメくらい大きいですけど」
「サメは食用にもなっていますが、アンモニア臭が強いのでクセが強いんですよね? 魚肉でしたら、マンボウが美味しいですよ?」
「え、マンボウ!?」
「ちょっと〜、なんでトレーニング見てるのにご飯の話!? もうお腹空いたのー?」
「おや、すみません」
知識を少々披露していただけだが、紗凪にはつまらなかったのだろうか。トレーニングはたしかに惚れ惚れしつつも観覧していたのだが、美兎の疑問に答えていたらいつのまにか食材の話に。
少々悪い癖だったかと火坑は反省するのだった。
「……紗凪。二人の好きにさせていいのではないか?」
「すーくん、そうだけどぉ〜。なんか初デートっぽくないもん!」
「そうは言うが、恋仲の付き合い方は恋仲の数だけ違うとお前も言っていたではないか? 二人には二人の距離があるのだろう?」
「う〜〜……はい」
翠雨に納得させられてから、火坑が錦の界隈で小料理屋を経営しているのを改めて紗凪に告げたところ、なるほどと言ってくれた。
「だからか、食材の関係になるとどうしても考えてしまうんですよね? どう言う素材で美味しく調理出来るのか」
「わ〜〜! すーくんすーくん! 今度かきょーさんのお店に行こ!」
「ああ。お前をまだ連れて行ってやれていなかったしな?」
「うん! 美兎ちゃんもよく行ってるんだよね?」
「そうだね。会社の関係で、週に一回が限度だけど」
「えー? 毎日行かないの?」
「湖沼殿の都合もあるのに、勝手なことを言うな」
「そだね?」
新しい常連の予感も出来たが、イルカのショーやベルーガのトレーニングが始まるまで。一旦小休止しようと館内にあるレストランに行くことになったのだった。
「ところで、かきょーさん」
「あの、栗栖さん。今の僕の名前は香取響也なので」
「呼び名もダメ?」
「ややこしくないですか?」
「今の名前呼ぶ方がややこしいー」
「……わかりました。で、なんでしょう?」
「マンボウって食べられるんだー?」
「ええ。三重県や和歌山県だとこの辺りでは食べられていることが多いです」
「鶏肉のようで美味いぞ?」
「え、翠雨さん召し上がったことがあるんですか?」
「ああ、少しの衝撃で死んでしまうからな? 打ち上げられたものだけを食べるようにしている」
他の人間の目もあるので、翠雨は特徴的なござる口調を封じていた。
たしかに、漁で獲れる以外のマンボウもだが。繊細で死傷しやすいマンボウは、地域によっては食用されていることが多い。
海外だと、台湾は一般的だそうだ。日本では今旬ではないのだが、時期になればまた美兎にも食べさせてやりたいと思った。
それだけ、美兎が火坑に興味を持ってくれていると思うと正直、嬉しかった。
ただでさえ、人間と妖の恋人関係と言う特異な関係であるのに。美兎は何も厭わずに火坑の話を真剣に聞いてくれていたから。
紗凪の提案で一時中断されたが、二人きりになったらもう少し掘り下げて話そうと決めた。将来の、翠雨と紗凪のように本当に番になるなどまだわからないが。
美兎の、嬉しいことになるのなら不安は多少でも押し除ける。火坑はそう決めた。
この縁も閻魔大王からの授かりものであるのならば遠慮する必要はない、と。
「響也さん! 行きましょう!」
美兎の嬉しそうな声に、火坑はハッと我に返った。
だが、考えていたことを悟られないように、得意の笑顔と恋人繋ぎの手を握り返すことで応えた。
「はい、行きましょう」
今は人間として、彼女の傍にいるのだから。人間らしく、もっと逢引きを楽しもうじゃないか。
元は猫畜生、今は猫の妖。
猫は、魚介類を多く好むとされているが。例に漏れなく、火坑もそうだ。だから、ではないが。育ての親でもある霊夢の生み出す料理には初回から随分と興味を持ったものだ。
けれど、今回のデートで名古屋港の水族館を選んだのは、火坑の個人的な主観だけではない。下準備は万全、美兎の食の好みはただの客だった時から少々把握はしている。
だから、錦の界隈にも協力をあおっているのだ。
「シャチって、おっきいですよね〜?」
そして、今は少し屋上に近い施設。イルカのショーや白イルカでお馴染みのベルーガとも隣接している、シャチの水槽の上部。
公開されている時間がちょうど合ったお陰で、サメ並みに巨大な魚類が飼育員に指示されながら、観客にパフォーマンスを見せてくれている。
シャチは肉食でも魚を主食にするのと、哺乳類であるアザラシやクジラ類を主食にするのと別れているらしいが。この水族館に生息するのはどうなのだろうか。
トレーニングを観覧している間に、美兎にこっそりと告げれば彼女は顔を輝かせたのだった。
「詳しいですね!」
「ふふ。普段から食材は主に魚類ですからね? と言っても彼らは哺乳類ですが」
「見た目はサメくらい大きいですけど」
「サメは食用にもなっていますが、アンモニア臭が強いのでクセが強いんですよね? 魚肉でしたら、マンボウが美味しいですよ?」
「え、マンボウ!?」
「ちょっと〜、なんでトレーニング見てるのにご飯の話!? もうお腹空いたのー?」
「おや、すみません」
知識を少々披露していただけだが、紗凪にはつまらなかったのだろうか。トレーニングはたしかに惚れ惚れしつつも観覧していたのだが、美兎の疑問に答えていたらいつのまにか食材の話に。
少々悪い癖だったかと火坑は反省するのだった。
「……紗凪。二人の好きにさせていいのではないか?」
「すーくん、そうだけどぉ〜。なんか初デートっぽくないもん!」
「そうは言うが、恋仲の付き合い方は恋仲の数だけ違うとお前も言っていたではないか? 二人には二人の距離があるのだろう?」
「う〜〜……はい」
翠雨に納得させられてから、火坑が錦の界隈で小料理屋を経営しているのを改めて紗凪に告げたところ、なるほどと言ってくれた。
「だからか、食材の関係になるとどうしても考えてしまうんですよね? どう言う素材で美味しく調理出来るのか」
「わ〜〜! すーくんすーくん! 今度かきょーさんのお店に行こ!」
「ああ。お前をまだ連れて行ってやれていなかったしな?」
「うん! 美兎ちゃんもよく行ってるんだよね?」
「そうだね。会社の関係で、週に一回が限度だけど」
「えー? 毎日行かないの?」
「湖沼殿の都合もあるのに、勝手なことを言うな」
「そだね?」
新しい常連の予感も出来たが、イルカのショーやベルーガのトレーニングが始まるまで。一旦小休止しようと館内にあるレストランに行くことになったのだった。
「ところで、かきょーさん」
「あの、栗栖さん。今の僕の名前は香取響也なので」
「呼び名もダメ?」
「ややこしくないですか?」
「今の名前呼ぶ方がややこしいー」
「……わかりました。で、なんでしょう?」
「マンボウって食べられるんだー?」
「ええ。三重県や和歌山県だとこの辺りでは食べられていることが多いです」
「鶏肉のようで美味いぞ?」
「え、翠雨さん召し上がったことがあるんですか?」
「ああ、少しの衝撃で死んでしまうからな? 打ち上げられたものだけを食べるようにしている」
他の人間の目もあるので、翠雨は特徴的なござる口調を封じていた。
たしかに、漁で獲れる以外のマンボウもだが。繊細で死傷しやすいマンボウは、地域によっては食用されていることが多い。
海外だと、台湾は一般的だそうだ。日本では今旬ではないのだが、時期になればまた美兎にも食べさせてやりたいと思った。