さて、オムライスと言えば。

 日本が生んだ洋食とは言え、完全に洋食スタイルなのもいかがなものか。

 灯矢(とうや)の食べたいものは、きっとそれかもしれないが。完全に洋食店の味を再現するだけでも面白くない。面白味を追求してもいけないとは思うが。

 少々、内側のご飯の味を工夫しようと決めた。

 灯矢から取り出した心の欠片である、卵達は調理台の脇に置き。

 まずは、玉ねぎを刻むことにしたが。


「灯矢君は、苦手な野菜とかはありますか?」
「な……ない、です!」
「ふふ。基本的に好き嫌いはないんですよ」


 母である灯里(あかり)が小さく笑うくらいだから、本当にないのだろう。であれば、にんじんとピーマンを入れよう。

 火坑(かきょう)は子育てをしたことはないが、野菜をまったく食べないのもいけないと思っている程度。

 火の通りやすいように、細かく刻み。油で炒めて、合い挽き肉も入れてケチャップは入れずに、醤油、砂糖、酒、みりんを合わせた調味液を流し入れる。

 アルコール部分を飛ばすためにも、よく煮込んで。煮詰まったら、ご飯を入れて混ぜてから皿に盛り付けておく。


「ケチャップの匂い……しない?」


 ちょっとだけ残念がっているようだが、火坑は小さく笑った。

 次に卵。

 灯矢から取り出した、有精卵のように赤い卵。これを贅沢に三つも使い、バターと塩胡椒でスクランブルエッグのように焼いていく。

 それを包むように、ご飯の上に乗せたら。仕上げに、灯矢念願のケチャップをかけていく。

 途端、灯矢から『わあ』の声が上がった。


「お待たせ致しました。特製和風オムライスです」
「わふう?」
「醤油とか、みりんを使ったので。普通のオムライスとは違うんですよ?」


 灯矢にはまだ持つのが重そうなので、カウンターに置いてやった。木製のスプーンを渡してやると、彼の白目が黒く、水色のような瞳が楽しそうに輝き出した。

 子供の客は少なくないが、たまに訪れる彼らと同じ表情になるのは嬉しかった。

 もう一度、さあどうぞ、と告げれば。灯矢はいただきますをしてから、スプーンでオムライスをすくった。


「わあ!」


 また声を上げてから、勢いよく口に入れると。はふはふしながら、ゆっくりと噛んでいく。


「こらこら、ゆっくり食べなさい」
「……ん。美味しい!! おしょーゆの味のご飯だけど、美味しい!! 卵、ふわふわ!!」
「ふふ。ここの大将さんのお料理だもの?」
「お粗末様です」


 喜んでくれて何よりだ。

 灯矢は少しオムライスが冷めてからも、ゆっくりゆっくり食べていく。普段から、灯里達にきちんと言いつけられているのだろう。

 ああ、もし美兎(みう)と将来的に結婚して子供が出来たなら。どう育てていくのか。

 楽しみだが、まだまだ考えるのは早いと考えていたことを霧散させたのだった。


「……ごちそうさま、です」


 気がつくと、ゆっくり食べていたのにもう灯矢は食べ終えてしまったようだ。

 子供サイズに作ってやったから、なくなるのもあっという間だったのだろう。

 次はどうするか、灯里の方に聞くと。


「卵ばかりもよくないですし……去年と同じような煮穴子の握りを」
「あなご??」
「ふわふわして美味しいお魚よ?」
「食べたい!」
「かしこまりました」


 それから、雨女一行のランチタイムは。

 時間の許す限り、続いていったのだった。