羨ましい羨ましい、と言うオーラが美兎の目でもわかるくらい。
だが、それなら話しかけてばいいのに、とも思うが。
合歓には、それが出来ないだろう。
とりあえず、美兎は秋保の話を聞くことにした。
「へー? 医療機関の研究者?」
「まだまだ新米だけど、新薬開発の補助とかそう言うのばっかり」
「けど、凄い。頭いいんだ?」
「理系の、勉強結構好きだから」
同い年なのに、美兎は純粋に凄いと思えた。
美兎もデザインのために、色々プログラムなどの勉強をしてきたが。それでも秋保には劣るだろう。
しかし、骨好きから医療関係と言うのは必然的なのか。秋保の顔は照れながらも、いきいきとしていた。
「お待たせ致しました。手羽元と大根などの煮付けです」
「え、もう!?」
「ふふ。妖怪だけが使える魔法のようなもので、ささっと作らせていただきました」
火坑がカウンターに置いてくれたのは。
醤油の色が美しい、手羽元に大根。あと、ゆで卵がある煮物だった。香ってくる匂いが食欲をかき立ててくる。
秋保もだが、美兎も合歓も食べることにした。
まずは、肉もいいが煮汁が染みていそうな大根から。
箸で割ると、中まで煮汁が染みていて琥珀色に輝いていた。口に入れると、ジュワッと甘辛い煮汁と大根の水分があふれてくるようだった。
「うわーうわー!! お肉にも味がしっかり染みてて、大根も美味しい!! 煮卵もー!」
秋保も気に入ったのか、梅酒を挟みながらもぱくぱくと食べ進めていた。
甘い、甘辛いと交互に食べ進めると、たしかに口の中が最高だった。
「ふふ、お粗末様です」
「店長さんは色んな料理が作れちゃうんですね?」
「一応料理人なので」
「すごいです! 店長さんの彼女さんは幸せ者ですよね?」
「ふふ、そうですか? 美兎さん?」
「もちろんです」
きっぱり言うと、秋保は初めて知った事実に目を丸くして、火坑と美兎を交互に見た。
「え、え、え?! 店長さんと美兎ちゃん、お付き合いしてるんですか!?」
「そうなの」
「ちなみに、僕ら以外にも妖と人間がお付き合いされている方が何組かいらっしゃいますよ?」
「へー……いいんだ」
最後にぽつりとつぶやいた相手が、合歓かもしれないと美兎は本能で悟った。
合歓本人は気づいていないようだったが。
「……そういや、俺のお客さんとかにも。ここが縁組みスポットとか言われてるね?」
ようやっと口を開いたかと思えば、楽庵の話だった。
「スポット??」
「そーそー。妖と人間との良縁を結ぶって、もっぱら噂になってるなってる。あ、俺これでも一応美容師なんだ」
「なるほど」
意外と言うわけでもないが、派手な外見にはよく似合っていた。
それで、言い寄られることが多かったわけか、と美兎は納得出来た。
「合歓さんはカッコいいですもんねー? 彼女さんとか居そう〜」
「え? いないいないいない!! 俺フリーだし!?」
「……ほんとですか?」
きょとんとなった、秋保の本心は安心したのかどうかはわからないが。
全力で否定している、合歓の表情を見る限り、ほっとは出来たのだろう。
これも時間の問題かもしれない。
とりあえず、秋保がひと通り食事を堪能してから。
二人は約束のために、楽庵を出たのだった。
「時間の問題でしょうか?」
「さあ。しかし、本当に僕は何もしていませんのに。縁組みをしてたんですかね?」
「道真様の飼い猫だったからじゃ?」
「ふふ。僕はあの方が現世で亡くなられる前に、一度死んだんですよ?」
「うーん? じゃあ、なんでしょうね?」
根拠はわからないままだが。
それでも、いいことには変わりないので。美兎は少し笑ってから、残ってた雑炊を口に入れるのだった。
秋保と合歓の関係もうまくいくようにと願いながら。