初めて、だったと思う。
女性に対して、こんなにも緊張するのは。
今まで、人化の美貌に言い寄られてきたのはしょっちゅうあったが。自分から、相手に好意を持つだなんて、がしゃどくろとして生まれてこの方一度もなくて。
だから、今隣に歩いている可憐で美しい、『人間』の女性に対して、どう話せばいいのかわからないでいた。
合歓は妖の一部ではプレイボーイとまで言われているのに、かたなし状態だ。
これが一目惚れなのか、と思わず自分で感心してしまうくらい。
すると、横からくいくいと袖を掴まれたのだった。
「うん?」
「あ、あああ、あの、合歓、さん!」
気づいていなかったが、彼女──笹河原秋保の顔色はとても青白かったのだ。
「ど、どうしたんだい!?」
「す、すみませ……ん! 忘れてたんですけど、ここ妖怪のいるとこだって!!?」
「……ああ」
たしかに。界隈だと人化しているかしていないかは個人の自由。合歓とて、本性のがしゃどくろで気味悪がられてしまうから、人化するくらいなのに。
妖の姿でうろつく連中を、怖いと思う秋保の気持ちもわからなくもない。だが、自分はその怖い部類にはいるのに。
知り合ったばかりだからか、頼ってくれた。不謹慎だが、少し嬉しく思えた。
「ね、合歓さんも妖怪だって……頭ではわかっているんですけど。かっこいいし……優しいし、ちょっとだけ安心出来るんです」
「……笹河原さん」
本性を知れば、きっと離れていくだろう。
けど、それでも。
出会ったばかりの、この女性の手を離したくはないと思ったのだ。本気で。
これが一目惚れの力なのか、と合歓は過去に言い寄られてきた女性達の言葉を思い返したが。妙に、納得出来たのだった。
「へへ。一応大人なのに、ダメダメですね……?」
「……ダメじゃないよ。怖い思いたくさんしてきたんだろ? 俺も怖い対象なのに、頼ってくれて嬉しいよ」
「!……ほんとですか?」
合歓が正直に言うと、俯いていた秋保の輝いた顔が見れた。
その眩しさに、また心臓がドキドキと高まっていくが、がしゃどくろでも人化すれば一応は臓器が存在するのだ。
それはどうでもいいとして。
秋保の破壊力がある笑顔に、合歓はさらに気持ちを鷲掴みにされた気分になったのだ。
「お、俺は……妖だけど。怖いと思うのに、人間とか妖とか関係……ないと思うよ。けど、俺の本性は怖いだろうから見せれないけど」
「!……合歓さんってどんな妖怪さんなんですか?」
「……俺の話聞いてた?」
「個人的な興味です! 合歓さんが知ってる人? 妖怪さんですから、怖くないかなって」
「ぷっ! どんな根拠?」
ああ、いつ以来だろう。
駆け引きのない、他愛もない会話を女性とするのは。身内以外では久しぶりかもしれない。
彼女になら見せてもいいかと思いかけたが、やっぱり怖がられたくないので。
まずは、口頭で言ってみることにした。
歩きながら、界隈の手順も教えつつ。
「で、どんな妖怪さんなんですか??」
と、可愛らしく聞いてくれたので、合歓も勇気を出して言うことにした。
「……えっと。がしゃどくろ言うのなんだけど」
「……どくろ?!」
絶対引くだろうと言ったのだが、反応は真逆で。
何故か、好奇の目の光が強くなっていくような気がした。
「…………骨だけのバカでかい妖怪だけど」
「ってことは、和風スケルトンですか!? リアルに!!?」
「……あれ。怖くないの?」
「ゾンビとか、ゴーストは苦手ですけど。スケルトンは大好物です!!」
ほら、と秋保が携帯を取り出したのだが。
ゴテゴテのヘビメタで、たしかにスケルトン満載の絵柄で統一したケースに、ジャラジャラしたアクセサリー。
可愛らしい容姿とは真逆に、結構ゴツい趣味だったのだ。服装は、社会人らしくOLの装いではあるが。
「……え? 骨だけは平気なの?」
「一応骨だけですね」
少々鼻息荒く言い切る様子まで、可愛らしい。
ああ、こんな彼女になら。
己の本性を見せてもいいんだ、と心底安心出来たのだが。
彼女にしたい欲望は抑えて、まずはLIMEの連絡先を交換するのだった。
そして、安全な界隈の入り口まで送り届けてから、また楽庵《らくあん》に戻ろうと決めた。どうせバレているだろうが、先に恋人が出来たあの猫人に報告するためにも。
女性に対して、こんなにも緊張するのは。
今まで、人化の美貌に言い寄られてきたのはしょっちゅうあったが。自分から、相手に好意を持つだなんて、がしゃどくろとして生まれてこの方一度もなくて。
だから、今隣に歩いている可憐で美しい、『人間』の女性に対して、どう話せばいいのかわからないでいた。
合歓は妖の一部ではプレイボーイとまで言われているのに、かたなし状態だ。
これが一目惚れなのか、と思わず自分で感心してしまうくらい。
すると、横からくいくいと袖を掴まれたのだった。
「うん?」
「あ、あああ、あの、合歓、さん!」
気づいていなかったが、彼女──笹河原秋保の顔色はとても青白かったのだ。
「ど、どうしたんだい!?」
「す、すみませ……ん! 忘れてたんですけど、ここ妖怪のいるとこだって!!?」
「……ああ」
たしかに。界隈だと人化しているかしていないかは個人の自由。合歓とて、本性のがしゃどくろで気味悪がられてしまうから、人化するくらいなのに。
妖の姿でうろつく連中を、怖いと思う秋保の気持ちもわからなくもない。だが、自分はその怖い部類にはいるのに。
知り合ったばかりだからか、頼ってくれた。不謹慎だが、少し嬉しく思えた。
「ね、合歓さんも妖怪だって……頭ではわかっているんですけど。かっこいいし……優しいし、ちょっとだけ安心出来るんです」
「……笹河原さん」
本性を知れば、きっと離れていくだろう。
けど、それでも。
出会ったばかりの、この女性の手を離したくはないと思ったのだ。本気で。
これが一目惚れの力なのか、と合歓は過去に言い寄られてきた女性達の言葉を思い返したが。妙に、納得出来たのだった。
「へへ。一応大人なのに、ダメダメですね……?」
「……ダメじゃないよ。怖い思いたくさんしてきたんだろ? 俺も怖い対象なのに、頼ってくれて嬉しいよ」
「!……ほんとですか?」
合歓が正直に言うと、俯いていた秋保の輝いた顔が見れた。
その眩しさに、また心臓がドキドキと高まっていくが、がしゃどくろでも人化すれば一応は臓器が存在するのだ。
それはどうでもいいとして。
秋保の破壊力がある笑顔に、合歓はさらに気持ちを鷲掴みにされた気分になったのだ。
「お、俺は……妖だけど。怖いと思うのに、人間とか妖とか関係……ないと思うよ。けど、俺の本性は怖いだろうから見せれないけど」
「!……合歓さんってどんな妖怪さんなんですか?」
「……俺の話聞いてた?」
「個人的な興味です! 合歓さんが知ってる人? 妖怪さんですから、怖くないかなって」
「ぷっ! どんな根拠?」
ああ、いつ以来だろう。
駆け引きのない、他愛もない会話を女性とするのは。身内以外では久しぶりかもしれない。
彼女になら見せてもいいかと思いかけたが、やっぱり怖がられたくないので。
まずは、口頭で言ってみることにした。
歩きながら、界隈の手順も教えつつ。
「で、どんな妖怪さんなんですか??」
と、可愛らしく聞いてくれたので、合歓も勇気を出して言うことにした。
「……えっと。がしゃどくろ言うのなんだけど」
「……どくろ?!」
絶対引くだろうと言ったのだが、反応は真逆で。
何故か、好奇の目の光が強くなっていくような気がした。
「…………骨だけのバカでかい妖怪だけど」
「ってことは、和風スケルトンですか!? リアルに!!?」
「……あれ。怖くないの?」
「ゾンビとか、ゴーストは苦手ですけど。スケルトンは大好物です!!」
ほら、と秋保が携帯を取り出したのだが。
ゴテゴテのヘビメタで、たしかにスケルトン満載の絵柄で統一したケースに、ジャラジャラしたアクセサリー。
可愛らしい容姿とは真逆に、結構ゴツい趣味だったのだ。服装は、社会人らしくOLの装いではあるが。
「……え? 骨だけは平気なの?」
「一応骨だけですね」
少々鼻息荒く言い切る様子まで、可愛らしい。
ああ、こんな彼女になら。
己の本性を見せてもいいんだ、と心底安心出来たのだが。
彼女にしたい欲望は抑えて、まずはLIMEの連絡先を交換するのだった。
そして、安全な界隈の入り口まで送り届けてから、また楽庵《らくあん》に戻ろうと決めた。どうせバレているだろうが、先に恋人が出来たあの猫人に報告するためにも。