と言うのが、花菜(はなな)楽養(らくよう)で働くきっかけだったのである。


「ふーん、じゃあさ?」


 ろくろ首の盧翔(ろしょう)は、花菜の長い髪をくるくる遊ぶと自分の口元に寄せた。それが絵になっているようで、花菜の鼓動が早くなっていく。


「先に俺とお前が会ってたら、俺んとこに来るかもしれなかったよな?」
「ど、どうでしょう??」


 花菜は霊夢(れむ)達が手がけた料理を自分で作りたいと思っただけで、盧翔のようなイタリアンが作れるようになるかどうかはわからない。

 それに、盧翔に恋をしたのは妖の年月からだとごく最近なので。その頃に出会ったとしても弟子入り志願をするかどうかは、流石にわからなかった。

 正直に話すと、盧翔はがっくしとテーブルに突っ伏した。


「まあ、そうだよな……そうだよな!? 俺そん頃日本にいなかったし!!」


 ないものねだりをしても仕方ないと、盧翔は顔を上げて苦笑いしたのだった。

 とりあえず、美兎(みう)が持ってきてくれた残りの八つ橋を食べながら。

 二人はお互いのことを話し合い、時々じゃれながら過ごしていたら。花菜の勤務時間になったので、花菜は急いで楽養に飛んで行った。


「お、おはようございます!!」


 裏口から入れば、ちょうど蘭霊(らんりょう)が何か仕込みをしているところだった。


「おう、おはよう。さっき美兎の嬢ちゃんが来たぜ?」
「あ……盧翔さんのお店でお土産いただきました」
「そうか。(ぼん)がいっちょ前に京都旅行……しかも、菅公(かんこう)に施しを受けたら。いつ結婚してもおかしくねぇなあ?」
「ま、そこはわからんだろ?」


 霊夢もこっちに来たので、花菜は挨拶した。


「まあ、まだあの嬢ちゃんは人間の時間を過ごしたいだろ? 坊の方が、良縁を結ぶ店とか言われてっし。なんかパワースポットみたいになってんな?」
「はっは! いいことじゃねぇか? 実際、人間と妖との良縁を結びまくっているしな?」


 それよりかは、花菜と盧翔だと蘭霊に言われると。花菜は顔に熱が集まっていくのを感じた。


「わ、私、ですか!?」
「付き合いはまだ短いとは言え、想い想い合っていたんだろ? だったら、いっそ早いうちに結婚しちまえよ」
「蘭、早過ぎだろ?」
「そうか?」


 盧翔と結婚。

 まだまだ当分先だと思っていたので。

 今度こそ、花菜の頭では処理出来ず気を失ってしまったのだった。

 気がついた頃には、休憩室で寝かされていたので。またやってしまったと反省してから。

 急いで着替えて、今日も下っ端としてたくさん働きに行くことにした。


「いらっしゃいませ!」


 今日も楽養での一日が始まった。