びっくりして、びっくりし過ぎて。
火坑に支えてもらわなければ、絶対失神していただろう。
あわあわしていたら、黒豹の店員がからからと笑い出した。
「おい、火坑。随分と可愛らしい嬢ちゃん連れてきたじゃねぇか? お前のこれか?」
「師匠……お嬢さんに失礼ですよ? 通りで少しぶつかったんです。で、お腹が空いていらっしゃったので」
「連れてきたってわけか?」
「……雪女、か?」
狼のような見た目の妖に、正体を見抜かれた。雪女の格好や本性を見せていないのに。まだまだ妖としては子供の花菜には、相手の正体を察知する能力はほとんどないのだ。
「あ……は、はい。雪女……の花菜、です」
「驚いただろう? 俺は、霊夢っつーんだ」
「俺は蘭霊だ」
人間じゃないから、風貌の恐ろしい妖は多いのは当然だが。
よくよく見ると、動物の顔立ち以外は整っているように見えた。同級生の女子達が知ったらはしゃぐくらい。
とりあえず、カウンターに座るように言われたので、ゆっくりと腰かけた。そして、鞄から薄い布で出来た手袋を出してはめたのだ。
「お? 凍結防止の手袋か?」
霊夢は知っていたようで、お茶を出してくれる時にしきりに頷いていた。
雪系の妖は、肌で直接触れた相手や物体に直接氷の妖力を伝わせてしまうのだ。年月が経てばコントロールは可能だが、まだまだ子供の花菜には到底無理だ。
だから、妖力遮断の手袋をはめれば普通に飲食が出来るのである。
冬も始まったばかりだが、雪女でも温かいお茶はありがたかった。
「腹減ってんだろ? うちは和食がほとんどだが、お嬢ちゃんくらいなら人間が好む『洋食』の方が好きか?」
「え、えっと……お品書き、は?」
「基本的に、ないな? 好き嫌い聞いてから、俺達のおまかせで作るのが多い」
「じゃ、じゃあ…………青えんどう……がなければ、大丈夫です」
「んじゃ、豆ご飯はダメだな? 蘭、卵系頼んだ。火坑は夕方の仕込みの続き」
「おう」
「はい」
花菜が青えんどう、後のグリンピースと呼ばれている大豆に似た豆が嫌いなのは。薄皮の部分と中身のぱさぱさ感が口の中で不快に思うからだ。大豆は平気なのだが、青臭さが目立つグリンピースはどうしてもダメで。
まず、霊夢が出してくれたのは芋の煮っ転がしのような小さな器だった。
「ほら、まずは里芋の煮っ転がしだ」
「……いただき、ます」
箸で落とさないように持ってから、ひと口。
冷めてはいるが、ほっくり感に甘辛い味が花菜の好みだった。お腹が空いていたので、思わずぱくぱくと食べてしまうくらいに。
「おいおい。そんな腹減ってたのか?」
「おいひい……美味しい、です!」
「はっは。焦りなさんな? まだまだ料理はあるぜ?」
と、次々に出てきたのは。野菜の天ぷらにだし巻き卵。青菜の胡麻和えに寒天菓子。
どれもこれもが華美ではないが、しっかりとした味付けで花菜の胃袋を満足させてくれた。
そして最後に。ほうじ茶でひと息をついている頃には、花菜はもう決めていた。
「あの……霊夢さん」
「ん?」
断られるかもしれない。けど、花菜の決意は揺らがない。
「どうしたら、私も……このお店で働けますか!?」
「は?」
「へ?」
「おや」
花菜の決意に最初は全員驚かせてしまったが。
少し間を置いて、霊夢は口端を上げながら笑い出した。
「そうだな? 半分はここで皿洗い、あとはせっかくこの時世だ。そう言う料理の学舎にも行ってみろ」
と言われたので、花菜は彼の言う通りに実行して。数十年後の今も楽養に勤めているわけである。
火坑に支えてもらわなければ、絶対失神していただろう。
あわあわしていたら、黒豹の店員がからからと笑い出した。
「おい、火坑。随分と可愛らしい嬢ちゃん連れてきたじゃねぇか? お前のこれか?」
「師匠……お嬢さんに失礼ですよ? 通りで少しぶつかったんです。で、お腹が空いていらっしゃったので」
「連れてきたってわけか?」
「……雪女、か?」
狼のような見た目の妖に、正体を見抜かれた。雪女の格好や本性を見せていないのに。まだまだ妖としては子供の花菜には、相手の正体を察知する能力はほとんどないのだ。
「あ……は、はい。雪女……の花菜、です」
「驚いただろう? 俺は、霊夢っつーんだ」
「俺は蘭霊だ」
人間じゃないから、風貌の恐ろしい妖は多いのは当然だが。
よくよく見ると、動物の顔立ち以外は整っているように見えた。同級生の女子達が知ったらはしゃぐくらい。
とりあえず、カウンターに座るように言われたので、ゆっくりと腰かけた。そして、鞄から薄い布で出来た手袋を出してはめたのだ。
「お? 凍結防止の手袋か?」
霊夢は知っていたようで、お茶を出してくれる時にしきりに頷いていた。
雪系の妖は、肌で直接触れた相手や物体に直接氷の妖力を伝わせてしまうのだ。年月が経てばコントロールは可能だが、まだまだ子供の花菜には到底無理だ。
だから、妖力遮断の手袋をはめれば普通に飲食が出来るのである。
冬も始まったばかりだが、雪女でも温かいお茶はありがたかった。
「腹減ってんだろ? うちは和食がほとんどだが、お嬢ちゃんくらいなら人間が好む『洋食』の方が好きか?」
「え、えっと……お品書き、は?」
「基本的に、ないな? 好き嫌い聞いてから、俺達のおまかせで作るのが多い」
「じゃ、じゃあ…………青えんどう……がなければ、大丈夫です」
「んじゃ、豆ご飯はダメだな? 蘭、卵系頼んだ。火坑は夕方の仕込みの続き」
「おう」
「はい」
花菜が青えんどう、後のグリンピースと呼ばれている大豆に似た豆が嫌いなのは。薄皮の部分と中身のぱさぱさ感が口の中で不快に思うからだ。大豆は平気なのだが、青臭さが目立つグリンピースはどうしてもダメで。
まず、霊夢が出してくれたのは芋の煮っ転がしのような小さな器だった。
「ほら、まずは里芋の煮っ転がしだ」
「……いただき、ます」
箸で落とさないように持ってから、ひと口。
冷めてはいるが、ほっくり感に甘辛い味が花菜の好みだった。お腹が空いていたので、思わずぱくぱくと食べてしまうくらいに。
「おいおい。そんな腹減ってたのか?」
「おいひい……美味しい、です!」
「はっは。焦りなさんな? まだまだ料理はあるぜ?」
と、次々に出てきたのは。野菜の天ぷらにだし巻き卵。青菜の胡麻和えに寒天菓子。
どれもこれもが華美ではないが、しっかりとした味付けで花菜の胃袋を満足させてくれた。
そして最後に。ほうじ茶でひと息をついている頃には、花菜はもう決めていた。
「あの……霊夢さん」
「ん?」
断られるかもしれない。けど、花菜の決意は揺らがない。
「どうしたら、私も……このお店で働けますか!?」
「は?」
「へ?」
「おや」
花菜の決意に最初は全員驚かせてしまったが。
少し間を置いて、霊夢は口端を上げながら笑い出した。
「そうだな? 半分はここで皿洗い、あとはせっかくこの時世だ。そう言う料理の学舎にも行ってみろ」
と言われたので、花菜は彼の言う通りに実行して。数十年後の今も楽養に勤めているわけである。