さて、どこから案内しようか。
と言っても、火坑として京都に来たのも十年以上も前だ。景観のために保存をしなくてはいけない条例があるとは言え、店は色々変わっているはずだ。
かつての首都だった場所。
そして、火坑が二世前に、過ごしていた平安の都だった場所でもある。
道真の邸以外、野良でなかった火坑は特に都を知らなかった。主人だった彼の知り合いの貴族の邸に母猫がいて、そこで生まれたのが火坑だった。
大勢いた兄弟の一匹でしかなかったが、珍しい白猫だったからと道真は気に入って邸に連れ帰ったのだ。彼の最期がああなるとは、誰も予想出来なかったが。
火坑の、猫としての一度目の生涯は、置いて行かれたので飢えで死んだのだ。
「響也さん?」
少し思い出にふけっていたら、美兎が心配そうに覗き込んできた。
「! ああ、すみません。少し昔を思い出して」
「昔……? あ、道真様と一緒だった頃ですか?」
「ええ。僕は貴族の飼い猫でしかなかったからですし。今の京都に来たのも十年くらい前です。色々変わったんだな……と」
「私も修学旅行以来ですね!」
思い出にふけっている場合じゃない。
生涯の伴侶とも思っている、大切な女性をエスコートしなくては。
着物に着替えるのは昼前なので、タクシーを使って清水寺がある場所へ移動することにした。てっきりバスで移動すると思ってたらしい美兎は、タクシーに乗る前に目を丸くしたのだった。
「あとでたくさん歩きますしね? 今のうちに体力は温存しておきましょう?」
「ありがとうございます……」
嬉しいのか、はにかんだ笑顔が愛らしい。これだったら、レンタカーを借りてスキンシップし放題も有りだなと思えた。
火坑は妖だが、人間としての自動車免許もきちんともっている。
回数は少ないが、アンコウの時期には小ぶりでも自転車で運ぶのが重いからだ。時期は過ぎてしまったが、次の旬の頃には美兎にご馳走してあげようと決めた。
とりあえずタクシーに乗ってしばらくすると。
窓越しに桜並木が目に飛び込んできた。当然、美兎は歓声を上げたのだった。
「ちょうど見頃ですからねー?」
美兎の声に、運転手がくすくすと笑い出した。
「おふたりは、今の京都は初めてで?」
「あ、修学旅行では来たことはあるんですが、秋だったので」
「僕は十年くらい前ですね?」
「じゃ、清水に行くと人混みはすごいですけど。あちこち咲いているから、いいお花見になりますよ?」
「ありがとうございます」
それから二十分後に清水寺に通じる小径に到着すると。たしかに凄い人混みだったが、桜もあちこち咲いていた。
「良い旅を」
火坑が料金を払ってから、運転手はそう言ってくれた。
いい運転手に巡り会えたな、と思ったら。一瞬顔がぶれて、狐の顔が重なったのだった。
まさか、と振り返れば、運転手は人差し指を口に当てていた。
タクシーは、ターミナルを回るかと思えばすぐに帰って行ってしまい。
道真の導きと言うか、もてなしのひとつを受けたのだな、と火坑は軽く息を吐いた。
「響也さん! 凄いです、凄いです!」
今は、はしゃぐ恋人とともに旅行を楽しもう。
とりあえず、人混みではぐれないように、しっかりと手を握ってあげたのだった。
と言っても、火坑として京都に来たのも十年以上も前だ。景観のために保存をしなくてはいけない条例があるとは言え、店は色々変わっているはずだ。
かつての首都だった場所。
そして、火坑が二世前に、過ごしていた平安の都だった場所でもある。
道真の邸以外、野良でなかった火坑は特に都を知らなかった。主人だった彼の知り合いの貴族の邸に母猫がいて、そこで生まれたのが火坑だった。
大勢いた兄弟の一匹でしかなかったが、珍しい白猫だったからと道真は気に入って邸に連れ帰ったのだ。彼の最期がああなるとは、誰も予想出来なかったが。
火坑の、猫としての一度目の生涯は、置いて行かれたので飢えで死んだのだ。
「響也さん?」
少し思い出にふけっていたら、美兎が心配そうに覗き込んできた。
「! ああ、すみません。少し昔を思い出して」
「昔……? あ、道真様と一緒だった頃ですか?」
「ええ。僕は貴族の飼い猫でしかなかったからですし。今の京都に来たのも十年くらい前です。色々変わったんだな……と」
「私も修学旅行以来ですね!」
思い出にふけっている場合じゃない。
生涯の伴侶とも思っている、大切な女性をエスコートしなくては。
着物に着替えるのは昼前なので、タクシーを使って清水寺がある場所へ移動することにした。てっきりバスで移動すると思ってたらしい美兎は、タクシーに乗る前に目を丸くしたのだった。
「あとでたくさん歩きますしね? 今のうちに体力は温存しておきましょう?」
「ありがとうございます……」
嬉しいのか、はにかんだ笑顔が愛らしい。これだったら、レンタカーを借りてスキンシップし放題も有りだなと思えた。
火坑は妖だが、人間としての自動車免許もきちんともっている。
回数は少ないが、アンコウの時期には小ぶりでも自転車で運ぶのが重いからだ。時期は過ぎてしまったが、次の旬の頃には美兎にご馳走してあげようと決めた。
とりあえずタクシーに乗ってしばらくすると。
窓越しに桜並木が目に飛び込んできた。当然、美兎は歓声を上げたのだった。
「ちょうど見頃ですからねー?」
美兎の声に、運転手がくすくすと笑い出した。
「おふたりは、今の京都は初めてで?」
「あ、修学旅行では来たことはあるんですが、秋だったので」
「僕は十年くらい前ですね?」
「じゃ、清水に行くと人混みはすごいですけど。あちこち咲いているから、いいお花見になりますよ?」
「ありがとうございます」
それから二十分後に清水寺に通じる小径に到着すると。たしかに凄い人混みだったが、桜もあちこち咲いていた。
「良い旅を」
火坑が料金を払ってから、運転手はそう言ってくれた。
いい運転手に巡り会えたな、と思ったら。一瞬顔がぶれて、狐の顔が重なったのだった。
まさか、と振り返れば、運転手は人差し指を口に当てていた。
タクシーは、ターミナルを回るかと思えばすぐに帰って行ってしまい。
道真の導きと言うか、もてなしのひとつを受けたのだな、と火坑は軽く息を吐いた。
「響也さん! 凄いです、凄いです!」
今は、はしゃぐ恋人とともに旅行を楽しもう。
とりあえず、人混みではぐれないように、しっかりと手を握ってあげたのだった。