殺されるかと思った。

 それくらい、あの猫人は視線だけで妖術を使えるのかと思った程だ。


「ふふふ、ふふふ! 大袈裟ですよ、(かおる)さ〜ん?」
「冗談やないでー、芙美(ふみ)やん!」


 ただいま、界隈の妖電報名古屋支社にて。

 たまたま来ていた、情報屋でありのっぺらぼうの芙美が一反木綿(いったんもめん)の馨の話を聞いてくれたのだ。

 反省の意を込めて、今は白い布切れのような姿。一反木綿の本性になっている。馨が一度本性に戻ると数時間は人化出来ないので、煙草を吸えない戒めだ。

 ただの布切れ。子供を襲うと言われる妖だが、現代日本でその手が通じるわけがないし。馨は襲うつもりはない。

 人間の子供を食らう必要がないし、現代の界隈ではいくらでも美味いものがある。人間界でもそうだ。

 とりあえず、手足の部分みたいな布切れを使って、ドリップマシーンで淹れたコーヒーを飲む。口の箇所も一応あるのだ。


「けど〜、大将さんをスクープにしないで正解ですよ〜? 美兎(みう)ちゃんには本気の本気だから〜、もしやっちゃってたら地獄の業火を呼んだかもしれないですね〜?」
「うっわ! ほんま、せんで正解やったわ!?」


 芙美はあの女性、美兎と言う人間の女性のことを芙美に簡単に教えてもらった。

 (さとり)御大(おんたい)の子孫。

 座敷童子の真穂(まほ)が唯一守護についた人間。

 とんでもない人物だ。

 スクープにしたい内容だが、真穂までいると後が余計に怖いので断念したが。

 かなり前に、スクープにしかけてこの建物を破壊されかけたのだ。

 そんな彼女が憑く相手とは、よほど魅力的な霊力の持ち主なのだろう。


「でも〜。あのお店で、人間と妖が結ばれる話が多いんですよね〜?」
「……ほぅ?」


 その噂は聞きかじっていた。

 今目の前にいる情報屋の芙美が、酔っ払った時に広めたらしいので信憑性は薄かったが。

 素面の今なら、本当のことが聞けるのだろうか。


「美兎ちゃんでしょー? 私でしょー? あと、火車(かしゃ)風吹(ふぶき)さんも」
「……えらい、いますなあ?」
「あそこは(えにし)を繋いでくれる場所ですけど〜」
「おん。芙美やんの馴れ初め聞いても?」
「記事にしちゃいます〜?」
「せんせん」


 もししてしまったら、芙美経由で火坑(かきょう)に繋がり。結局は、楽庵(らくあん)に出禁させられることになるだろう。

 それだけは避けたかった。


「えっとですね〜?」


 そこから聞かされた内容は。

 こちらが、甘ったるい金平糖を噛み砕くような。甘々のものばかりで。

 こりゃ、記事には出来ないと馨は納得したが。とりあえず、赤鬼の隆輝(りゅうき)が勤務する人間界の洋菓子店が絶品とも教わり。

 久しぶりに奴に会いに行くついでに、取材しに行こうと。人化出来るようになってから、芙美を見送ったのだった。