着物に袖を通すなど、いつ振りだろうか。
仕事で作務衣のようなものは着ているが、着物とは言い難かった。洋服のようにちゃっちゃっと着れるから、火坑には違うと思っていたのだが。
普段着も似たような服なので、本当に着物に袖を通すのは久しぶりだ。
恋人の美兎がどのような煌びやかな着物を着てもいいように。出来るだけ、落ち着いた風合いに。
まだ四月前でも、猫毛程度の火坑の体毛では肌寒く感じてしまう。おまけに今日は、人間界でのデートだ。
猫の姿を隠すために、『香取響也』として彼女と名古屋の町を練り歩くのだ。寒いが、我慢するしかない。
「……こんなところか」
きちっと衿を整えて、羽織るのには羽織よりも和装向きのコートがいいだろうか。
一応昨夜までに決めてはいたのだが、気温が変わりやすいこの時期だから。そこは慎重に選ばなくては。風邪を引いたのは、今の生を得てから片手で足りるほどしか引いていないが。油断は出来ない。
とりあえずコートにすることにして、手には手袋。マフラーはいいかと思ったが、バレンタインに美兎からもらった手編みのマフラーを合わせると。意外に似合っていた。
ではこれで行こう、と。片付けをしてから人間界に向かう。
着物なので多少は目立つが、響也の顔は基本的には地味にしてある。調整しないと、以前美兎に見せた通り女性の心を鷲掴みにしてしまう傾向が強いからだ。
師匠である霊夢にも注意されたことがあるし、出来るだけ美兎を困らせたくはない。
ただ、今日は少し急いだ。
いつも最高に可愛い恋人が、着物で煌びやかに着飾っている姿はきっともっと素敵で可愛いだろうから。
待ち合わせの場所に着くと、予想以上に美兎は可愛く素晴らしく着飾った着物姿で待っていてくれた。ナンパされていないか心配だったが、座敷童子の真穂も一緒だったからか、大丈夫そうだった。
彼女に関しては、人化した姿で普通の服装だったが。
「じゃ、お邪魔虫は退散するわねー?」
火坑を見ると、ばいばーいと言いながら帰って行った。本当に、美兎を守るためだけにわざわざ出向いてくれたのだろう。
「おはようございます、響也さん」
振袖姿のような派手さはないが。
控えめな装飾でも、美兎の容姿を引き立たせていた。桃色と金糸が主体となった着物は本当に彼女によく似合っていて。
抱きしめたい衝動を堪えて、火坑は笑みを返した。
「おはようございます。……よくお似合いですよ?」
「あ、ありがとうございます!……響也さんも、素敵です」
「ふふ。ありがとうございます」
美兎も真穂に借りたのか、和装のコートを着ていた。それでも、首元から見える装いは愛らしく。
髪には、覚の奥方からいただいた手作りのかんざしをつけていた。約束通り、つけてくれたことが嬉しかった。
手を繋いでから、まずは着物で歩くことに慣れるために。
ゆっくりと、栄の街並みを歩くことにしたのだった。
仕事で作務衣のようなものは着ているが、着物とは言い難かった。洋服のようにちゃっちゃっと着れるから、火坑には違うと思っていたのだが。
普段着も似たような服なので、本当に着物に袖を通すのは久しぶりだ。
恋人の美兎がどのような煌びやかな着物を着てもいいように。出来るだけ、落ち着いた風合いに。
まだ四月前でも、猫毛程度の火坑の体毛では肌寒く感じてしまう。おまけに今日は、人間界でのデートだ。
猫の姿を隠すために、『香取響也』として彼女と名古屋の町を練り歩くのだ。寒いが、我慢するしかない。
「……こんなところか」
きちっと衿を整えて、羽織るのには羽織よりも和装向きのコートがいいだろうか。
一応昨夜までに決めてはいたのだが、気温が変わりやすいこの時期だから。そこは慎重に選ばなくては。風邪を引いたのは、今の生を得てから片手で足りるほどしか引いていないが。油断は出来ない。
とりあえずコートにすることにして、手には手袋。マフラーはいいかと思ったが、バレンタインに美兎からもらった手編みのマフラーを合わせると。意外に似合っていた。
ではこれで行こう、と。片付けをしてから人間界に向かう。
着物なので多少は目立つが、響也の顔は基本的には地味にしてある。調整しないと、以前美兎に見せた通り女性の心を鷲掴みにしてしまう傾向が強いからだ。
師匠である霊夢にも注意されたことがあるし、出来るだけ美兎を困らせたくはない。
ただ、今日は少し急いだ。
いつも最高に可愛い恋人が、着物で煌びやかに着飾っている姿はきっともっと素敵で可愛いだろうから。
待ち合わせの場所に着くと、予想以上に美兎は可愛く素晴らしく着飾った着物姿で待っていてくれた。ナンパされていないか心配だったが、座敷童子の真穂も一緒だったからか、大丈夫そうだった。
彼女に関しては、人化した姿で普通の服装だったが。
「じゃ、お邪魔虫は退散するわねー?」
火坑を見ると、ばいばーいと言いながら帰って行った。本当に、美兎を守るためだけにわざわざ出向いてくれたのだろう。
「おはようございます、響也さん」
振袖姿のような派手さはないが。
控えめな装飾でも、美兎の容姿を引き立たせていた。桃色と金糸が主体となった着物は本当に彼女によく似合っていて。
抱きしめたい衝動を堪えて、火坑は笑みを返した。
「おはようございます。……よくお似合いですよ?」
「あ、ありがとうございます!……響也さんも、素敵です」
「ふふ。ありがとうございます」
美兎も真穂に借りたのか、和装のコートを着ていた。それでも、首元から見える装いは愛らしく。
髪には、覚の奥方からいただいた手作りのかんざしをつけていた。約束通り、つけてくれたことが嬉しかった。
手を繋いでから、まずは着物で歩くことに慣れるために。
ゆっくりと、栄の街並みを歩くことにしたのだった。